2025年7月7日、ホルベインから透明水彩の新商品、分離色シリーズ【ナイトフォールカラーズ/全5色】が発売されたので、私も脳みそが沸きそうな暑さのなか発売日に買いに行ってきました。
2024年は複数のメーカーから次々発表され話題になった透明水彩の分離色、ホルベインからは【グラニュレーティングカラーズ/全24色】が出ていましたが、新たに増えた5色はどんな色なのか、色見本と使い方、人気が高い一方で少々クセ強なところもある分離色の塗り方、一撃で使いやすくする分離色の使い方のコツなどを作例とともにご紹介していきます!
もくじ
分離色の仕組み
分離色とは1本の絵の具チューブから2色以上の色が出てきたり、ザラザラした表情が出るミラクルで夢のある絵の具。

色によって出かたに強弱はあるけれど、色が分かれるだけでなくザラザラとした粒状感が出るのも分離色の特徴だよ
「どうして分離色は色が分かれるのか、どうしてザラザラに粒状化するのか」その仕組みは色の原料である顔料にヒミツがあるの。
顔料は色によって種類がちがうんだけど、たとえば粒が大きくて重たいAと粒が小さくて軽いBという2色の顔料が混ざっている場合、
水をふくませて紙に塗ったとき、軽いBの色は水の流れにのって素早く広がるけれど、重たいAの色はBのように広がる前に粒が沈んじゃう。

性質のちがいを利用して、分離させるような顔料の組み合わせで作られている絵の具なんですね
ナイトフォールカラーズの色見本
【ナイトフォール】って【夕暮れ・日暮れ】という意味。
この時間帯【逢魔が時】なんて言葉もあって、けっこう攻めてる感じが好き。
夕暮れ色ってことで5色とも深くて重みのある色。

24色セットを持っているのではじめは買うつもりなかったのですが、ネーミングが刺さったのと発売前にホルベインさんのSNSで色見本を見たときに(これ使いやすいかも)と感じたので買うことにしました
分離色って分離色ゆえにクセがあるというか絵を描くとき扱いがちょっとむずかしいところがあるけれど、そんな分離色の中では深くて重みのある色は使いこなしやすいほうだと思います。
※ご紹介する色のイメージについては私の個人的な感想で、正確な色相や成分を表したものではありません。
W761 ナイトフォールレッド

緋色のような激しい赤ではなくワインのような色味。
黒っぽいからクリムゾンのイメージに近いです。
W762 ナイトフォールイエロー

暑苦しくない黄色、赤みを感じない黄色が煤けたイメージ。
黄色って少し色相がずれると強烈な印象になりやすいと私は思うのだけど、この色は上品な色味をキープしていると思います。
W763 ナイトフォールグリーン

優しい色味。
ベースの色相がアニメの背景画に使われるような明るい葉っぱのような緑ではなく、日本画で使われるような緑青とか青竹色のような緑で控えめな印象です。
W784 ナイトフォールブルー

こちらのベースカラーは空のような青色。
ロイヤルブルーとか真っ青っていう感じでなくて穏やかな色味です。
W765 ナイトフォールバイオレット

紫の色味が赤みと青みのどちらにも偏りすぎていない、ちょうど真ん中くらいの紫。
着物に使われていそうな落ち着いた紫です。
5色とも落ち着いた感じがちょっと日本画的な印象も受けました。
分離色の塗り方のコツ
ホルベイン、ナイトフォールカラーズに限らず、分離色に共通する塗り方のコツ。
その前提として
私はオンラインで分離色絵の具を使った講座もしているのですが、受講者さんにお話しするのは

分離色は劇薬ですよ
ってハナシです。
成分のことじゃないよ!効果、使い心地のイメージね。
※ホルベイン・ナイトフォールカラーズは全色“健康障害を起こす危険性がないもの”であるAPマークのラベル表記がついています。

分離色はとっても面白くて魅力的な絵の具だと私も思いますが、持ち味のザラザラ感が諸刃の剣で使いすぎると分離色に絵が喰われます。

ザラザラは愛でる分にはいいのよ…
でも絵を描くとなったらハナシは別
ザラザラが絵の中で汚れのように見えずマチエールとして見えなくちゃ、個人的には分離色は使うのをさけたい絵の具だったりします。
ところで
私は以前とてもひどい冷え性だったのですが、特に冬場は生きている人間と思えないほど手足が冷たくなり、漢方薬を処方してもらっていたことがあります。
そのお薬の成分にはトリカブトが含まれていて、薬局では鍵付きの引き出しで保管しなくてはいけないいわゆる劇薬です。
実際のお薬はトリカブト単体でなく色んな生薬が混ざっていて、毒消しの役割をする成分も入っています。
特別めずらしいお薬でもないのですが、そのお薬が合う体の状態のときに用法容量を守って服薬することで体の状態を治してくれるんですね。

分離色の絵の具ってこれとそっくりで、そのザラザラの【必要なところ】に【使う分量を見極めて使う】ことで良さが引き出せる絵の具だと思うの
そこで使う目的をふたつに分けて考えてみました。
- 分離色のザラザラをとにかく愛でたい、楽しみたいという目的
- 絵を描くときに分離色の良さを生かしつつ、自然になじむように使いたいという目的
ナイトフォールカラーズを愛でる塗り方のコツ
こちらは分離色、ナイトフォールカラーズの粒状感を愛でつくしたい方のための塗り方のコツです。
分離色を愛でる塗り方のコツ ①おすすめの紙
ナイトフォールカラーズは分離色である前に、透明水彩絵の具なんですよね。
透明水彩はにじみを活かして楽しむ絵の具なので、画用紙ではなく水彩紙を使うというのが大前提です。
そしてツルッとした細目の水彩紙より中目、荒目などのエンボスのある水彩紙の方が凸凹のくぼみに重たいほうの顔料が落ちてたまるので、ザラザラした粒状感が出やすくておすすめです。

分離色を愛でる塗り方のコツ ②濃度
分離色に限らず透明水彩で描くときに共通のコツなのですが

絵の具もお水もたっぷり使うといいよ
たとえば分離色が上手く分離しないという場合、筆にふくませる絵の具も水も少なすぎるからだったりします。
水だけ多くても上手くいかないので、水も絵の具もりょうほう気前よく使うと絵の具がキレイに広がって分離もキレイに出やすくなるよ。
分離色を愛でる塗り方のコツ ③色の選び方

ここぞというところに効果的に使うとか、色々な色を使わずに単品(1色だけ)で描いてしまうのもおすすめなコツ
で、この単品使いのときに使いやすい色とそうでない色があるのね。
結論から言うと、濃く塗ったときにくらーい色が出せる色は使いやすいです。
だから今回のナイトフォールカラーズは色を見た瞬間に使いやすいと思ったの。
ナイトフォールカラーズで絵を描くコツ
ザラザラが持ち味の分離色を毒にならないように良さを活かして描くにはどうしたらいい?

ザラザラ効果が消えない程度に抑え込む方法…
分離色で絵を描くコツ ①オススメの紙
ザラザラが出すぎるから絵が汚れてしまうなら、ザラザラがよく出せる中目・荒目の水彩紙を使わないこと。
細目の紙を使えばザラザラ感は穏やかになります。

でもこれは…難易度高いかも
もともと後戻りしにくく引き算で描く透明水彩、そのうえ細目の紙は表面がツルツルなだけに絵の具をたくわえにくく重ね塗りがあまり出来ない、つまりある程度描き慣れている人がサッサッピャーッと描くのに向いている方法です。
もっといい方法はないのか、初心者でも描きやすい方法は。
分離色で絵を描くコツ ②濃度

汚れて見えるのはコントラストのせいだわ…
コントラストを下げなきゃいけないのよ
あれ…?

このマーク…、そうか半透明色…か!
ホルベインの水彩絵の具のこのまるい表記、透明度を表しています。

このマークは〇の半分に色がついているから半透明色。
実は透明水彩絵の具から半透明の色が出ていたり、不透明水彩絵の具(ガッシュ)から透明色が出ていたりするんだよ。
見て。これは水を加えず100%の濃度で描いたナイトフォールウミウシ。

透明水彩のパッケージに入って何食わぬ顔で透明水彩と名乗っているけど…ナイトフォールカラーズには隠されたもうひとつの顔がある。
あなたのもうひとつの名前は、不透明水彩。
水分を減らしてコントラストを下げれば分離のザラザラも良い感じに抑え込めるってこと。
ソフトグラニュレーションのすすめ
ねえ知ってる?

透明水彩にホワイトを混ぜると不透明水彩が作れるんだよ
ホワイトだけじゃなくて不透明色と混ぜれば、透明水彩絵の具から不透明水彩絵の具が一瞬で出来てしまうの。
分離色が汚れて見えることがあるのはコントラストが強いから。
ナイトフォールカラーのコントラストが強いのは
- ベースカラーの彩度が高い
- ザラザラとベースカラーの明度差が大きい
このふたつが理由だと思う。
だからガッシュのパーマネントホワイトを混ぜて彩度を落とし、明度差も穏やかにして水分量もガッシュで描くときの濃度に、そのうえ細目の紙に塗ればソフトなグラニュレーションを作り出すことが出来るはず。


コントラストの毒が消えた!
一気に繊細で上品な分離になりました。
これで描いた絵がこちら。

使った色はとてもシンプル。
ナイトフォールカラーズのナイトフォールレッド、
ガッシュのパーマネントホワイト、アイボリブラック、カーマイン。
微細なグラニュレーションが雰囲気を作りつつ、絵になじんでいます。

細目の紙は難易度高めだから、中目の水彩紙でもためしてみよう
ホワイトアイビスの中目で描いたのがこちら。

今度はホワイト以外のガッシュの色ももう少し増やしてみたよ。

ぶどうの葉っぱはもともとザラザラしたフが入ったりしているので、分離色と相性も良いと思ったからモチーフに選んだよ
ナイトフォールカラーズに混ぜるガッシュの量を増やしたり減らしたりしてザラザラを出したり抑え込んだりコントロール出来ました。
分離色を使うことで存在感のあるマチエールが出て雰囲気も出せたと思います。
ナイトフォールカラーズでくすみカラーを作ろう
ナイトフォールカラーズにホワイトを混ぜると一撃でお洒落なくすみカラーが作れます。

もとの色が絶妙だからだね

上が透明水彩としてのナイトフォールカラーズ、下が不透明水彩としてのソフトグラニュレーション。
画像ではわかりにくいかもしれないけど、不透明になってもやわらかな分離が確認できます。

甘すぎないスモーキーな分離が楽しめる可愛いくすみカラーで、上品なザラザラ感を楽しみながら雰囲気を壊さずに絵を描くことが出来ました。

ソフトグラニュレーションはとっても簡単に作れるから、あなたも試してみてね
透明水彩をくすみカラーにしたときは、思い切って他の色にも全部ホワイトを混ぜて全体を不透明にする使い方をすると統一感が出て仕上がりがキレイになるよ。
ナイトフォールカラーズの価格
ホルベイン、ナイトフォールカラーズの価格は1本240円(税込264円)。
私も講師としてワークショップをしているホルベインアートスペースなら、じつは誰でも10%OFFで購入可能です。

ここでは気になる画材を試し描きさせてもらえるので、買ったあとでイメージとちがうなんて失敗がないし、色々他の画材も試せて楽しくお買い物が出来るよ。

あなたはどの色が好きですか
私はナイトフォールレッドとパーマネントホワイトで作ったくすみピンクがとても気に入ったよ!
ナイトフォールカラーズ、お手持ちの分離色絵の具も、透明水彩としても不透明水彩としても2度楽しんでみてはいかがでしょうか。楽しいよー。
P.S. ちなみに9月のワークショップで、は分離色のグラニュレーティングカラーズとガッシュを混色して絵を描くよ♪
ホルベインの分離色、グラニュレーティングカラーズについてはこちらの記事でも詳しく紹介しているよ