水彩画でも日本画の筆を使うワケ|抜群に優秀な絵筆の種類と使い方

私の愛用の絵筆は日本画用の筆です。

日本画でなくても、水彩画でもポスターカラーで描くときも、日本画の筆を使っています

それはなぜか。

日本画の筆が優秀過ぎて戻れなくなったから。

私は美術系大学の画学生だった時期もあり、水彩画用の絵筆はちゃんと持っていました。

けれども師匠について絵を教わるようになり、師匠が私の絵をじーっと見た後に「筆持ってへんのか?」と言ってお古の絵筆をバサッとくださったのが、日本画の筆を使うようになったキッカケです。

自分ではそれなりに持っているつもりでいた水彩画の絵筆では、思うように絵を描くには種類が全然足りていなかったのです。

絵筆を変えただけで綺麗に描くことが出来る…を体験してしまうと、今までどうやって描いていたのか不思議になるほどです。

よくよく考えてみれば日本画の筆とは、繊細な感性とものづくりの勤勉さを持つ日本人が、改良を重ねながら長年使ってきた絵筆。

繊細な表現が出来て、直感的にこう動かしたいという描き手のいうことをよく聞いてくれる、用途ごとに痒いところに手の届くとても使いやすい絵筆、それが日本画の筆です。

日本人なのに日本画の筆を使ったことがないって、実はとってもソンしているかもしれません。

ということで、今回は私が愛用している色んな種類の日本画の筆と、その使い方についてご紹介していこうと思います。

日本画の筆の種類と使い方

日本画の筆は種類が多く、師匠からいただいても初めは使い方がわかりませんでした。

ミラ

この筆はどういうときに使うんですか?

師匠

どんな時っていうてもなぁ…実際に使ってみんことにはなぁ

ミラ

実際使うにあたってどうしたら…

師匠

筆なんかどんな筆でも描けるねん!

100均の筆でも描けるねん!

ミラ

あぁぁ…(イケズせんと教えてぇ…)

という状態の為、とにかく描いて描いて「コレはこうやナ」とわかった一軍メンバーの筆がこちらです。

まだ何者かわからへんのが控えメンバーとしていてるけど、とりあえずこの筆たちについて説明していきます。

あ、それと…これはおさがりの筆なので、現在販売中の物もあれば、彫られた名前で検索しても出てこないくらい古いものもあります。

古くてよくわからないものについては推測される素材とサイズ感を記載するので、実際に購入されたい場合はご参考までに…日本画の筆を扱うお店で似たものをお買い求めになってくださいね。

どちらかというと初心者の方向けというより、より上手になりたい方が絵筆を買い足すときのご参考にしていただけるかと思います。

丸筆 羊毛筆

私が一番好きな筆、それは羊毛筆。

水彩界隈ではコリンスキーが絶大な人気を誇っているけれど、良い筆と言っても使う用途次第だと思うのです。

羊毛筆の特徴は柔らかくてコシがないこと。

コシがないのがエエんですわ…。

コシがないとどう良いかというと、こちらが描きたいように筆がよく言うことを聞いてくれるということと、筆跡が残りにくいこと。

筆で描いた後にスジみたいに筆の跡が残るのが、私は我慢ならんのです。

羊毛筆は跡が残りにくい。

残りにくいから例えば他の筆で色を塗ったところにスッと羊毛筆で水を引くと綺麗にボカすことが出来ます。

どれか筆一本しか使ったらアカンと言われたら、私なら羊毛筆を選ぶかなと思うくらい好きな筆です。

羊毛筆は洋画(水彩)用でも売っているのは見かけるけど、申し訳程度しか置いていないなと感じます。

書道の筆や日本画の筆を扱っているお店なら、サイズ展開もたくさんあります。

この写真の筆はどちらも今でも販売されているもの。

上の筆は中国筆で四海大楷という筆で穂先が0.7×3.6㎝。

小品から中ぐらいのサイズの作品を描くのに使いやすいサイズです。

これより一回り小さい筆には四海中楷というのもあります。

下の筆は関西にあるとんでもなく安い画材の店で、3本セットワンコインで買っておつりがくるもの。

軸の部分がプラスチックで安い感じがするけど、ちゃんと描けます。

絵筆の軸は竹の方が手に持った時になじむ感じがして好きですが、プラスチックでもさほど問題ないので、気軽に絵を始めたい方は安いのでも良いと思います。

羊毛筆の長所でもあるコシのなさは難点でもあります。

パレットや絵皿で絵の具を溶くとき、毛が柔らかすぎて上手く溶けません

あらかじめ指で練っておいたり、他の筆で溶いて用意してから描くようにしています。

丸筆

羊毛筆以外の獣毛の丸筆です。

羊毛筆より毛がシッカリしていて比較的広い範囲でも描きやすく何にでも使いますが、筆跡が残らないように描いた後すぐ羊毛筆で縁をボカすことが多いです。

この筆はどれも調べてもわからなかったのですが、毛色と手触りの感じから上の二本は複数の種類の毛を混合したもの、一番下の筆はイタチと思います。

たらしこみの技法などで描くときには同時に沢山の色の絵の具を絵皿に溶いて用意するのですが、丸筆も絵皿ごとに何本も用意して使っています。

たらしこみに限らず小さな筆でチマチマ描いてしまうとイジイジした絵になるので、広いところには大きめの筆を使います。

上の筆で穂先が約5cm。このくらい大きいのも一本あると便利です。

真ん中の筆の穂先は約2.8cm。このくらいのサイズは描くのにもよく使うし、絵の具を溶くときにも使いやすいです。

下の筆の穂先は約2.5cm。

毛先がバサッとしてまとまりが良くない(または良くなくなった)筆は、絵皿の中などでわざと毛先を崩して割った状態で描く、割筆の技法に使うのに適しています。

平筆

師匠が筆をくださったとき、私は平筆は全然使わずに絵を描いていました。

今となっては平筆がないのは考えられません。

水彩用の良い紙だとムラが出来にくくて丸筆だけでもわりと綺麗に塗れたりもしますが、スジが残りがちですし、不透明水彩など厚塗りするときなどは丸筆だけだとムラが気になります。

平筆で塗ると丸筆よりも手数が減り、その分塗りムラも出来にくくなりスッキリと綺麗に描くことが出来ます。

よく使う平筆は羊毛筆が多いです。

一番上の筆は日本画の老舗画材屋の得應軒の筆です。

平筆は分厚いと描きづらいため、私は全て毛量を減らす加工をして使っています。

細筆・面相筆

細かいところを描くのに適した筆です。

上の筆は削用筆と思います。穂先は2㎝。

黒い毛の部分(イタチ?)はコシが強く、この写真では毛が広がっていますが絵の具を含むとキュッと細くなり、エッジの利いた細かい部分や細い線を描きやすいです。

白い部分(羊毛など)で彩色もしやすかったはずですが、かなり擦り切れているようなので、穂先だけ使っています。

下の筆は上海工芸 狼毫描筆と書いてあります。

狼毫とはオオカミではなくイタチの毛のことです。穂先は1.5㎝。

細かい部分を描くときはコシのあるイタチの筆が描きやすいと思います。

太筆

日本画らしい松や梅などの木の幹を描くときなどに使います。

剛毛でバサッとしているので、わざとかすれた線を出せます。

これは書道用の筆と思いますが、私はこの筆に限らず、書道用かどうか特に気にせず使っています。

毛は馬とか狸あたりだと思います。

もう少し柔らかい太筆もありますが、狩野派のようなかすれた大胆な線を描くにはバサバサした剛毛の方が描きやすいかな、と思っています。

水刷毛

名前の通り水を引くための刷毛です。

水彩紙を水張りするときに使うほか、筆跡のエッジを残さないためや、はじきの強い紙に描くとき、絵の描きはじめに水刷毛で紙を薄く濡らしてから描くと描きやすくなります。

この刷毛が染まっているのは、これが水刷毛と知らなかった頃に普通の刷毛として色を塗ったことがあるからです。

ぜんぜん綺麗に塗れませんでした。

ボカすのにも使えます。

大きめのが一本あれば良いと思います。

絵刷毛

空などの広いところをチマチマ丸筆で描くとムラが出来ます。

広いところは刷毛を使うとスカッと上がり、あか抜けます。

この二本の絵刷毛はとても良く使います。

ムラなく綺麗に広範囲が塗れますし、グラデーションも綺麗に作ることが出来ます。

大きな絵になると上の刷毛が重宝しますが、中くらいの作品までなら下の刷毛でじゅうぶんです。

おそらく馬の夏毛と思われます。

程よい弾力があり絵の具の含みもよく、とても描きやすいです。

毛量の加工調整済み。

毛量を減らすとその分絵の具を含む量が減り、刷毛の寿命も縮むと思いますが、それ以前に描きにくいとどうにもならないので、自分の使いやすいようにしてから使っています。

下の刷毛のサイズは二寸(幅約5.9㎝)、上の刷毛が三寸(幅約9cm)です。

買うと結構良いお値段がしますが一本あると絵があか抜けます

連筆

日本画の筆と言えばこれを思い浮かべる方も多いと思います。

見た目が変わっていて印象的な連筆です。

絵刷毛が均一に綺麗に塗ることが出来るのに対して、連筆は表情のある塗り方が出来ます。

絵の具をよく含んで広範囲も余裕をもって塗ることが出来ます

連筆も高価なので、師匠は丸筆をボンドでくっつけて自作されたのですが、塗ってみると筆と筆の間にスキマが出来て連筆のようにはならなかったそうで、連筆とは職人さんの技で出来た本当に特別な筆だと思います。

日本画の筆を扱う店ならどこでも、連筆は大抵おいておられます。

これは五連筆ですが、三連、七連筆もあります。

古くなって三連筆が壊れたのかなと思っていた師匠の筆は、二連筆でした。色々ありますね。

毛先が斜めになったタイプもあり、細かなところも綺麗に塗りやすいです。

毛を自分好みにカットした筆

使いたい用途によって毛先を切り落としたり、細くして使っています。

刷毛や筆の加工の仕方は下の記事で詳しく解説しているので、興味のある方や持っている筆が使いにくいという場合には、加工して使ってみてください。

まとめ

いかがでしたか。

お気づきかもしれませんが、全て獣毛筆です。

師匠

ナイロン筆でも使いやすいのはあるからつこうてみ

と言われてすすめられた筆も使ってみたのですが、繊細な描き込みにはコシがやや強いように感じました。

比べるとやはり獣毛筆が描きやすいです。

コリンスキーがもてはやされるようにイタチの毛はまとまりが良く描きやすいですが、それぞれの獣毛の特徴によって描く部分ごとに使い分けていくと、羊毛や他の毛も描きやすいです。

羊毛筆は水彩画のボカし(後から水を付けてボカす)には抜群に向いている筆だと思うので、イタチで描いて羊毛でボカすなど、絵筆二本持ちで描くのにもオススメです。

初心者の方が買いそろえるには少し値が張るものもありますが、丸筆しか持っていないという方は平筆と絵刷毛は使うと絵のクオリティが上がるので、上手になりたい方にはおすすめしたい筆です。

加工すると筆の寿命が縮むと書きましたが、加工の時にやりすぎなければ数年程度でダメになることはないと思います。(描く頻度にもよりますが)

師匠

100均でも良いって言ったけどな、これでないと描かれへんっていうのもあるし、やっぱり道具は偉いもんや

連筆に関してはやはり刷毛とは違った独特の描き心地があり、やはり他と違う筆だなと思います。

それなりにお値段もしますが、毛先が斜めになったものを私はまだ持っていないので、そろそろ買い足したいなと思っているところです。

今回ご紹介できなかった他の筆についても、用途がわかれば記事に追加していこうと思っています。

ちなみにアクリルガッシュで描くときにもこれらの筆を使ってみたのですが、イマイチでした。

アクリル系の絵の具はそもそも描き味がぶるんとして重いので、コシの強いナイロン筆の方がよく合っているのだと思います。

ミラ

日本画の筆は水彩画でも大活躍するよ

絵筆を買い足すときのご参考にしていただければ幸いです。

こちらのお店でも日本画用の筆を扱っておられます。大阪にお住まいの方にはオススメです。

ABOUT US
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ミラデザイン画家
似顔絵肖像画を描いたり師匠のアシスタントをしながら制作活動をしています。好きな画材はポスターカラー、不透明水彩、日本画の絵の具。琳派とヨーロッパアンティーク風の絵が好きです。画家活動や画廊で長く働いた経験から得た、絵の描き方やリアルなアートの話のほか、生きづらくて苦しんだ後にたどり着いた、前向きでラクな考え方や肩の力を抜いた楽しい生き方についても書いています。