トレース(トレス)とは絵画においては写真や絵をなぞって描きうつすことを指します。
トレースが役立つのはどんなときか、トレースのメリットやデメリット、トレース台を使わず簡単に出来る、手作りの複写紙を使ったアナログなトレースの方法について、詳しく説明します。
もくじ
トレースする目的
デッサンの代わり
デッサン的な意味で、絵を描くモチーフの正確な形をとるために使います。
人物や動物を描くときに写真をトレースしている人は多いようです。
下図を写す
絵を描くときに下図(図案)を作ってから描く場合、描き起こした下図を実際に作品を描く紙に写すのに使います。
絵の練習(模写)
写真や絵をなぞって描くことで、実際の形や描き方が感覚的につかめます。
私は一時期、ファッション誌の写真を見ながら人物を鉛筆で線描きし、その後で写真にトレーシングペーパーをのせてトレース、それを自分が描いた絵の上に重ねてどれだけ形が狂っているか確認するという使い方をしていたことがあります。
自分ではシッカリ形がとれているつもりでも、肩のカーブがずれていたり、線の傾斜が急だったり、自分の手癖に気付くのには良い方法でした。
トレースのメリット、デメリット
トレースのメリット
デッサンが苦手でも写真をトレースすれば、モチーフをリアルに描くことが出来ます。
短時間で効率よく狂いのない形をとれるため、似顔絵など安価なのに似てる似てないを言われやすい絵の場合は、トレースを使うのは効率が良くクレームにもなりにくい方法です。
別紙に描いた下図をトレースすることで、下描きを何度も描き直すことで絵を描く紙にダメージを与えるのを防ぐことが出来ます。
独学で絵を描いているときなど、絵の勉強方法のひとつとして使えます。
トレースのデメリット
便利で簡単なトレースですが、絵の下描きにトレースを使用する場合、安易に使うと絵に生き生きとした遊びの部分がなくなり、かたいイメージになりがちです。
無料の素材サイトの写真をアレンジせずトレースして絵を描くと、他の作家さんとかぶってしまうこともありえます。
アナログなトレースの方法
アナログなトレースの方法には、トレース台を使う方法と複写紙を使う方法があります。
トレース台を使う
トレース台の上に下図、その上に絵を描く紙を置き、トレース台の中のライトを付けると下図が透けて見えるのをなぞります。
写真など分厚い紙や、裏表印刷されている雑誌などの場合は見えづらいので、改めてコピー用紙などにプリントしたものをトレースすると良いです。
複写紙を使う
絵を描く紙、複写紙、写真や下図の順に重ね、ボールペンなどで下図をなぞって紙にトレースします。
文具や裁縫で使うカーボン紙は線が消えにくいので、複写紙は自分で作ります。
画板に水張りした紙など、トレース台が使えない場合には複写紙が便利です。
こちらもトレースの元になるものが分厚いと写しにくいです。
複写紙で下図をトレースする方法
ここからは私もよく使う、複写紙を使った下図のトレースのやり方を説明していきます。
複写紙の作り方
まず複写紙を作りましょう。
- トレーシングペーパーなど薄い紙
- 鉛筆(濃いめ)
トレーシングペーパーのように薄い紙が良いです。
トレーシングペーパーを切らしているときに書道の半紙を使ったこともありますが、半紙でも問題なく使えます。(あまり凸凹していないほうが良いです。)
鉛筆は濃い方が早く塗れるので、私は4Bとか6Bを使っています。
トレーシングペーパーを鉛筆で塗りつぶしていきます。
縦横斜めなど角度を変えて、出来るだけスキマがないように塗ります。
鉛筆は寝かせて描くと早く塗ることが出来ます。
複写紙を作ってすぐは、トレースしたとき鉛筆の粉が付きすぎて紙を汚してしまうため、他の紙(いらない紙やティッシュ)で塗ったところの表面を軽くこすり、余分な粉を落としておきます。
複写紙は一度作っておくと繰り返し使えて便利です。
何度も使っているうちにトレースの線が薄くつきにくくなってきたら、また上から鉛筆で塗り足して使うことが出来ます。
絵の下図をトレースしてみよう
絵を描く紙に下図をマスキングテープなどで仮止めし、コーナー部分などに印をつけておきます。
トレースしている途中でズレたりテープが外れてしまうことはよく起こるので、印をつけておくことでズレていないか確認しながら作業が出来ます。
絵の具を塗り重ねている間に下描きの線が見えなくなったときなど、もう一度下図をトレースする場合がありますので、この印は絵を描く範囲の外側になるようにつけ、絵が完成するまで消さずに残しておきましょう。
下図の紙の大きさが足りないときは、継ぎ足して大きくしてください。
絵を描く紙と下図の間に複写紙をはさみます。
このとき、出来るだけペンを持つ方の手が複写紙の上に乗らないような位置にはさみます。
ペンでなぞるときに複写紙の上に手が乗っていると紙に粉がうつって汚しやすく、後で消すのが面倒です。
ボールペンで下図をなぞります。
赤など下図の線と違う色のボールペンにしておくと、なぞった部分となぞっていない部分がわかりやすいです。
筆圧があまり弱いとうまくトレース出来ませんが、筆圧が強すぎても紙に線のへこみが出来てしまうので、様子を見ながら加減してください。
ちゃんとトレース出来ているか、なぞり残しているところがないか、下図と複写紙をめくって絵を描く紙を確認します。
なぞり残しはよくあることなので、下図を外す前に確認する方が良いです。
トレースが出来たら下図と複写紙を外し、線の濃すぎるところやトレースしたときについた余分な鉛筆の粉をねり消しでトントンと消していきます。
紙はこすると表面にダメージを受けます。
目で見て分からなくても、色を塗ったときにこすった部分だけ色の付き方が違って悪目立ちすることがあるので、消しゴムでこすらず、ねり消しで優しくおさえるようにして消しましょう。
トレースの線の薄いところや途切れているところなど、必要に応じて鉛筆で描き足します。
完成
日本画の場合はトレースした線を薄墨でなぞります。
鉛筆の線は水でぬれると消しゴムをかけても消えにくくなりますので、水彩画など下図の線を目立たせたくない場合は、絵の具で描き始める前にトレースした線をねり消しで出来るだけ薄くしておきましょう。
トレースは、下図を作って絵を描く画家には必須の工程です。
下図を忠実になぞると絵がかたくなりやすいので、少々ズレても良いからなぞるときの運筆に緩急をつけるのが下図のトレースのコツです。