水彩画を描くときに多くの人が手に取る透明水彩絵の具と、不透明水彩絵の具(ガッシュ)というものがあります。
海外では不透明水彩(ガッシュ)も人気ですが、なぜか日本では透明水彩絵の具が広く普及し(メーカーの営業さんが頑張ったからという話も…)、水彩絵の具といえば透明水彩のことを指すと思っている方も多いのではないでしょうか。
透明水彩は魅力的な絵の具のひとつですが、不透明水彩をよく知らないだけで、本当は描きたい絵のイメージを描くには不透明水彩の方が合っているのに気が付かず、透明水彩を使って描いているために上手く描けないと悩んでいる方が、実は多いように思います。
透明水彩と不透明水彩の違いを知ることで、あなたが絵の具を選ぶ選択肢、あなたの絵の可能性は広がります。
透明水彩と不透明水彩それぞれの特徴と違い、初心者におすすめはどちらの絵の具か、実は簡単に出来てしまう併用の仕方についても解説していきます。
もくじ
透明水彩と不透明水彩の違いを知ろう
透明感の違い
透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)は文字通り、透明で下の色が透過する絵の具と、不透明で下の色を覆い隠す絵の具です。
透明水彩の場合は別の色を塗り重ねると下の色が透けるため、紙の上で混色が出来ます。
一方不透明水彩は下の色を覆い隠すため、基本はパレットの中で混色します。
ただ、実際は不透明絵の具の中でも半透明色という色が多くあり、完全に不透明な色の絵の具ばかりではありません。
上の画像ではマゼンタとレモンイエローを使っていますが、どちらも透明寄りの半透明色です。
半透明色の場合は文字通り半透明なので、暗い色の上に明るい色で描くことは出来ますが、完全に下地の色が見えなくなるわけでなく、うっすらと下の色も感じられるため、下地の色を適度に活かして描くことが出来ます。
材料の違い
透明水彩と不透明水彩は性質のまるで異なる絵の具なのかと思いきや、実は材料は同じものから出来ています。
透明水彩も不透明水彩も、色の材料である顔料と、顔料をくっつける接着剤(展色材、バインダーともいいます)の役割をするアラビアゴム(メディウム)から出来ています。
ふたつの絵の具の違いは顔料の量の違い。
不透明水彩には透明水彩より顔料が多く配合されているために色の濃度が高く、塗ると不透明に見えているだけ…。
つまり、不透明水彩絵の具にアラビアゴムを加えると透明水彩絵の具が出来てしまいます。あなたのパレットの上でも簡単に。
不透明水彩絵の具を持っていると、同じ絵の具で不透明にも透明にも描くことが出来るのよ
先程の画像は、右側は不透明水彩絵の具を普通に塗ったもの、左側は同じ不透明水彩絵の具にメディウムを混ぜて作った透明水彩絵の具です。
実際に私が不透明水彩絵の具を使用している感じとしては、メディウムで薄めた方がややツヤが出るものの、水で薄めるだけでも問題なく透明水彩風に描くことが出来ています。
画風の違い
なぜ透明水彩と不透明水彩があるかと言えば、結局のところ完成する絵の画風がそれぞれまるで異なるものが出来ることだと思います。
透明水彩の魅力は、紙の白さを活かし絵の具のみずみずしいタッチで色を美しく繊細に表現出来ることだと思います。
不透明水彩の魅力は、水彩絵の具でありながら、アクリル絵の具のようなボリューム感のある表現やリアルな説得力のある表現が出来ることだと思います。
技法の違い
ホワイトの表現の違い
透明水彩と不透明水彩の技法の最も違うところは、ホワイトを残すか描くかという違いです。
透明水彩は紙の白さを活かしてマスキングして残すなど、基本的にホワイトは描かないことで表現します。
不透明水彩では濃い色の上に明るい色を重ねられるため、ホワイトも絵の具で塗って表現することが出来ます。
ホワイトに限らず、色の濃淡を水の加減で描く透明水彩に対し、不透明水彩ではホワイトを混ぜて混色した明るい色を厚塗りしていくことも可能です。
描く順番の違い
透明水彩は色を薄く塗り重ねながら描いていく絵の具なので、いきなり暗い色ではなく明るい色から塗りはじめ、徐々に暗くしていきます。
不透明水彩は基本的には色の明るさで順番を気にする必要がありません。
使える技法の違い
先ほど不透明水彩はメディウムを足すと透明水彩になると説明しました。
つまり、不透明水彩は透明水彩の技法は基本的に何でも使えるということになります。
先ほどの不透明水彩の画像をもう一度使って説明します。
同じレモンイエローの不透明水彩絵の具にメディウムを混ぜて透明水彩絵の具にしたものを、不透明水彩のマゼンタに塗り重ねるとこうなります。
不透明水彩絵の具は透明水彩としても使えるため、実際の作品制作の時には不透明の特性だけで描くのではなく、両方の絵の具の特徴を使って描いていくことが出来ます。
上の絵は不透明水彩絵の具を使って描いたものですが、背景や色の薄い部分などは透明水彩風の使い方で表現し、手前にある花の描き込みは不透明水彩ならではのしっかりとした着色で描いています。
飛んでいるハチを描くには、透明水彩の場合はマスキングするなどして周りの花と描き分ける必要がありますが、これは不透明水彩なので、花の絵を描いた上に描き足しました。
値段の違い
透明水彩と不透明水彩では値段が少し違います。
透明水彩のほうが不透明水彩より少し高い、または同じくらいの値段で不透明水彩のほうが容量が多い、という商品展開になっているようです。
これは絵の具の材料によるもので、アラビアゴムの値段が顔料よりも高いため、アラビアゴムの量が多い透明水彩のほうが値段が高くなるのだそうです。(画材メーカーさんのワークショップでメーカー担当者さんから確認済み)
学校教育向けの画材などはアラビアゴムの代わりにデキストリンなどを材料に使うことで、値段をリーズナブルに抑えています。
透明水彩と不透明水彩、簡単なのはどっち?
先日、子供の頃に教わっていた絵画教室の先生とお会いする機会があり、30年以上絵の指導をされている先生は「不透明水彩の方が簡単、上から描き直せるから」と仰っていました。
客観的に見て、透明水彩の方が綺麗に仕上げるのにテクニックが必要な描き方だなと思います。
透明水彩と不透明水彩の違いは、引き算と足し算の違いだと思います。
どういうことかというと、不透明水彩は上から塗り重ねていく足し算的な描き方が出来るのに対して、透明水彩は描き足せば描き足しただけ筆のタッチがわかりやすく画面に出てしまい、スッキリ仕上がりません。
プロの先生や上手な方の透明水彩の絵を見ていると、最小限の手数で効果的に描かれており、あらかじめよく計算して引き算的に描かれている絵だということがわかります。
いくら塗り重ねられるとは言っても、不透明水彩でもあまり手を入れすぎると筆跡が残りますし、色も濁っていきますので手数が少ないに越したことはありませんが、透明水彩ほどテクニックを気にせずに描けると思います。
透明水彩と不透明水彩を併用する
おそらくあなたは透明水彩と不透明水彩どちらが良いか、どちらを選ぼうか考えてこの記事を読んでくださっていると思います。
結論から言うと、私は両方使えば良いと思っています。
透明水彩にはみずみずしいタッチ、不透明水彩には存在感のあるタッチという特徴がそれぞれありますので、まずあなたの描きたいタッチに近い方の絵の具を選ぶことが大切だと思います。
そのうえで、透明水彩だけ、不透明水彩だけにこだわる必要は全くないと思います。
もともと同じ材料から作られる透明水彩と不透明水彩は、兄弟のようなもの。
それぞれの違いを良いところととらえ必要に応じて併用すれば、あなたの絵の表現の幅が広がります。
例えば透明水彩をベースに制作していても、「この部分をポイントにくっきり描きたい」というようなときや、「もう少しボリュームを出したい」というときには不透明水彩も部分的に併用するとか、基本は全部透明水彩だけど、ホワイトだけ不透明水彩を使ってハイライトに使うなど。
ホワイトをくっきり見せたければ半透明色の不透明水彩絵の具より、ポスターカラー(不透明水彩の一種)の方が合うこともあります。
私自身は「しっかりとした存在感のある絵が描きたい、しかも出来るだけ難しくない方法で」という思いがあって、不透明水彩(ポスターカラーと併用)を使っています。
水彩絵の具と言えば透明水彩にばかりスポットが当たりがちですが、不透明水彩を実際に使ってみると難しくなくて描きやすく、メディウムや水で薄めるだけで透明水彩にもなるため、透明水彩絵の具を別に購入する必要もなく、良い絵の具だなと思って使っています。
個展で不透明水彩を使って描いた絵の展示をいたしますので、ご興味のある方はぜひ見にいらしてください。
小学校の図工で使う絵の具は、不透明水彩絵の具です。
これは不透明水彩が小学生用の絵の具という意味でないことは、ここまで読んでくださったあなたなら、もうわかっておられると思います。
学習用の絵の具と美術作品制作用の絵の具では品質に違いはありますが、不透明水彩という基本は共通していますから、絵を描く初心者の方でも一番簡単に扱いやすく、描きやすい絵の具は不透明水彩なのではないかと私は考えています。
透明水彩を使っていてどうもイメージと違うという方や、アクリル絵の具のように描きたいけど画材が使いにくいという方は、不透明水彩が合っているかもしれません。
値段が高いなと感じる方は、高品質のポスターカラーも検討してみてください
透明水彩と不透明水彩どちらをメインにするか
透明水彩と不透明水彩は兄弟のようなものと先ほども書きました。
不透明水彩に水やメディウムを多めに混ぜれば透明水彩のように使え、透明水彩は白い絵の具を混ぜれば不透明(半不透明)になります。
では、どちらをメインにしたら良いかですが、それは目指す作風によって選ぶことともうひとつ、どこで描くかということも判断材料になります。
透明水彩はパレットを作り、水のついた筆でぬぐうようにして使っていきます。
不透明水彩の場合は顔料濃度が高いため、パレットに出してしまうとカチカチになりやすいことと、不透明水彩はパレットの絵の具を水の付いた筆でぬぐうやり方では薄くなりすぎてしまい、不透明水彩の良さを生かしきれません。
そのつど使うたびにチューブから出して使う方が不透明水彩には向いているので、屋外スケッチなどで外に画材を持ち出して絵を描く場合はパレットと一体化した透明水彩の方が細かな荷物が少なくて便利です。
あなたの描きたいものに合う絵の具を見つける参考にしていただければ幸いです。
不透明水彩と透明水彩で描くことの出来る作風の違いを知らないまま画材を選ぶのは、絵を描く前の段階で大きなミスをしているかもしれません