美術系の仕事を探している方へ。
あなたがもし将来的に画家活動をするつもりでいるなら、画廊の仕事をオススメします。
私は美術系大学を途中で辞めてしまいましたが、ご縁があってその後画廊で長く働き、その後で似顔絵など実際に絵を描く仕事をするようになりました。
画家活動をするときにプラスになるであろう仕事は画材関係、デザインや建築インテリア系、ウェブ関係など他にもいろいろありますが、私自身は画廊で仕事を出来たことが、今になってとてもプラスになったと感じています。
画家活動をする人がほぼ必ずと言っていいほどお世話になる画廊、その仕事の内容やメリット、デメリットについてご紹介します。
美術系の仕事を探すときのご参考になれば幸いです。
もくじ
画廊の仕事とは
美術系の仕事の中でも画廊の仕事は自分が絵を描くわけではありませんが、一生懸命とりくむと結果的に絵を描く仕事にとても活かせる仕事内容になっています。
画廊にも様々なスタイルがあり、百貨店の美術画廊のように販売色の強い画廊、街中などに独立して存在する展示メインの画廊、独立系画廊でも販売に力を入れている画廊、自社の固定の画廊を持たず、日本各地の百貨店やホテルなどの催事会場を飛び回り販売するタイプの画商さんもあります。
どの画廊(画商)で働いても学ぶことは沢山あると思いますが、将来的に画家活動を本気でしたいという人には販売重視の画廊の仕事の方がより役に立つことが多いように思います。
美術系の学校に行っても学ぶことの出来ない画家活動の最前線の現場、それが画廊の仕事です。
画廊の仕事内容
画廊のスタイルによって仕事の内容は若干異なると思いますが、私の勤めていた販売系の画廊の仕事内容をご紹介します。
- 接客・絵画の販売
- 額縁の販売(オーダー額装を含む)
- 絵画(シート)の発注
- 絵画(シート)に合う額縁を選んで発注
- 額装
- 絵の展示替え(常設会場)
- 作家サイン会などの催事の企画
- 催事用のDM、広告などの申請・校正
- 催事会場の設営・運営
- 商品の配送
- お客様への電話連絡・サンキューレター等
ざっくりこんな感じです。
画廊の仕事 5つのメリット
美術系の仕事の中でも画廊は、画家を目指す人にとっては仕事のほぼすべてがメリットと言えます。
画廊での接客・販売スキルが身につく
絵を描くのが好きという範疇を超えて本格的に画家活動をする人にとって、最終的に行きつくところは「自分の描いた絵を売りたい」ということではないでしょうか。
自分の絵でなくても、画廊で実際にお客様に接客しながら絵画を販売するという仕事は、美術系のどんな仕事よりも画家活動にとって有益な経験になるのではないかと思います。
絵画というものはたとえ有名な作家さんのものであってもそう簡単に売れるものではありません。
作家さん自身の名前を冠した美術館があろうと、世界的に有名なアーティストであろうと、テレビなどのメディアに登場する有名人だろうと、ただ並べているだけでは売れないのです。
絵が売れるには仕掛けが必要です。
昨今ウェブ媒体を巧みに活用して展覧会さえ開かずに沢山の絵を売ってしまうというすごい画家さんも活躍されていますが、展覧会場というリアルな場所で販売する場合には仕掛けプラス丁寧な接客が欠かせません。
ウェブだけで販売出来てしまう画家さんも、絵が売れるまでには接客の役割を果たす仕掛けを必ず使っています。
接客することでお客様の興味関心や、お客様のお困りごとなどに多く触れ、どんなときにどんな絵が何のために売れるのかということが実感として理解できるようになります。
額装テクニックが身につく
販売重視の画廊の場合、絵画だけでなく額縁も扱っているところが多いです。
その場合、自社で扱う絵画とお客様の持ち込まれる絵などに額装することも日常的な仕事になります。
画廊では多くの画家の絵を扱いますから絵の作風も様々、非常に多くの作品とそれぞれに合う額装にすることで、既製品の額縁を自分用に購入しているだけでは思いつかないような素敵な額装や美術館で見るような美しい額装も提案できるほど額装のセンスやテクニックが身に付きます。
美術系の仕事の中でも額装に関われるのは画商(画廊)と額縁メーカー、画材店くらいではないでしょうか。
絵は額縁次第で同じものとは思えないほど魅力的に見えるようになります。
「額縁なんて…私は絵だけで勝負する」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私はもっと額縁という素材を柔軟に受け入れ、良い意味で利用すれば良いと思っています。
昨今では若い方を中心にキャンバスパネルをそのまま飾るという方も増えていますが、繊細な感性の日本人ならではの考え方なのか、お客様の多くは購入した絵画作品にホコリが付いたり汚れることを好まず、額縁に入れて飾りたいと思われる傾向があります。
絵画が高額になるほどその傾向は強くなります。
自分の作品を魅力的に見せることの出来る額装テクニックは美術系の学校でも詳しくは教えてくれていないはず。(私の通った美術系大学では授業でかすりもしませんでした。)
額装テクニックが身につく画廊の仕事は画家になりたい人にとっては力強いメリットになります。
絵画を見映えよく展示出来るようになる
公募展やグループ展、個展で絵を展示するとき、自分の作品を複数点展示できる場合に絵の配置を決めるのに難儀したという方も多いのではないでしょうか。
とりあえず展示は出来たけど、それが見映えの良い配置だったのかよくわからない方もいらっしゃると思います。
画廊での絵の展示は自分の部屋に絵を飾るのとは違います。
いかに人の心を掴んでお店に入っていただき、興味を持って作品を見ていただけるか。
絵画を販売するための展示の仕方、見栄えのする配置などが身についていきます。
展覧会の運営スタッフの気持ちがわかる
公募展にしろ個展にしろ、開催するには会場スタッフなど、運営に携わってくださる方たちの存在が欠かせません。
運営スタッフが準備のためにどれほど働いてくれているか、絵が売れるためにどれだけ一生懸命な接客をしたり、日ごろから画廊についているお客様を大切にされているかなど、実際に体験した者でないとわからない大変さを知ることが出来ると、自分が展覧会に出品するときにありがたみがよくわかります。
私が画廊で働いていたとき、大成功だったサイン会催事の後で作家さんからお礼のお手紙が届いたとき、そのお心遣いがとても嬉しかったのを今でも覚えています。
売れる絵がわかる
画家活動をする中で必ず気になるであろう「どんな絵が売れるのか」という疑問について、販売の最前線で働いているわけですから、わかるようになります。
画廊で働き始めた最初の3か月ほどは「なんでこれが売れるん?」とさっぱり意味が分からなかったのですが、先ほど接客のところでも書いたようにお客様のお話を聞いたり購入される姿を目の当たりにすることで、徐々にどうしてその絵が売れるのかということが理解できるようになっていきます。
これは絵を販売する画家にとって学んだ方が良い重要な課題のひとつであるにも関わらず、現状、美術系の学校で教わることの出来ないことだと思います。
画家さんの中には「売れるための絵を描くなんて」「媚びを売るなんて」と思われる方もいらっしゃると思います。
絵は金額や技術でなく魂で描くものだという考えを、私は決して否定したくありませんし、そのような活動スタイルの画家さんの姿勢は尊重したいと思っています。
ただ、絵を売りたいのであれば、必要とされない絵ばかり描いていても結果が出せません。
どういうものが人気があるのかということは素直に学んでみても良いのではないでしょうか。
素直に学んでみたとき、「媚び」であったり「魂を売る」ようなことだと思っていたことが「知らない」ことに起因する偏見だったと気が付くかもしれません。
美術系の仕事の中でデザインの仕事をされている方は、この売れる絵という感覚が自然に身についている方が多い印象がありますが、額絵を売りたいという画家さんにとって、画廊は美術系の仕事の中ではこの感覚をおぼえることが出来る、最もオススメの仕事だと思います。
画廊の仕事のデメリット
美術系の仕事の中でも画廊は最もオススメする仕事とはいえ、デメリットとまではいかなくとも、他の多くの仕事同様に辛いこともあります。
予算がある
販売系の仕事に必ず存在する予算(売上目標)が販売重視の画廊にも存在します。
私の働いていた画廊は個人ノルマまではありませんでしたが、ショップとしての予算があり、売上が悪ければ店の存続に関わるため、少ない人数で運営しているからには自分がしっかり販売しなくてはというプレッシャーは常にありました。
ただ、私は着物の展示会に行ったときに強引なセールスにあい、いらないというのに半ば無理やり着物を着せられ、ローンも組めると詰め寄られ、買わない意志を通すと「この人は買う気がない」と販売員が言い放つなど、とても嫌な経験をしたことがあったので、押し売りは絶対にしないと決めてお客様にも公言していました。
それでも、予算の為に必死になる気持ちはわからなくもないかなと思います。
肉体労働である
美術系の仕事というとお洒落なイメージがありませんか。
私も画廊に立っているとお客様から「綺麗な仕事ね」と言われたことがあります。
ところが現場はなかなかの肉体労働。
毎日の様に額縁がぎっしり詰まったパッキンを運び、展示替えでは大きな額縁を上げたり下ろしたり。絵の展示なんて額縁一つや二つじゃありませんものね。
別会場でサイン会イベントなんて開こうものなら設営は本当に大変です。
大量に届く重たいパッキンを何度も台車で運び、個別に取り出した額縁は1点ずつ運んでいたのでは時間が足りなくなるので、大衣くらいの大きさの額縁なら指の間に挟んで両手で5点くらいを一気に持ちます。
暑い時期に設営時間にエアコンを止められてしまったこともあり、熱中症になりかけながら設営したこともありました。
あるときは店に自分しかいないときにお客様がお見えになり「この前見た絵、まだある?」と仰るので、ダイニングテーブルほどもある大きさの絵を倉庫に取りに行き、一人で担いでくるなんていうこともありました。
大きな絵を女性が買ってくださったときや、お客様の荷物が多いときにはよく駐車場まで絵を運びました。
「重たいのにいいの?」と気にしてくださる方には「毎日していますから慣れているんです」「ラクに持てるコツがあるんです」と返事をして笑顔で運びました。
本当はいつも運んでいても重たいものは重たいですし、お上品な持ち方でラクに持てる方法はありませんでした。(重たいものをラクに運べるワイルドな持ち方については、今後別の記事でご紹介しますね)
何年もそういう仕事をしたので、元々痩せ型の私の場合は股関節を痛めてしまい、今はあまり重たいものは持てなくなりました。
美術系の仕事の中でも、画廊は本当に体力仕事です。
個展がしにくい
画廊で働いているとき、特にその会社の規模が大きい場合、商業施設などで自分が個展をしにくくなる場合があります。
どこそこのスタッフさんと身バレすると「取引先の人」だからややこしいということで、避けられてしまうことがあるからです。
私はずっと以前に九州の百貨店で絵の師匠と組む形で展示していただいたことがあるのですが、「もう画廊は辞めているね」ということを企画会社の方に念を押して確認されました。
辞めた後なら特に問題にはならないようです。
画廊の仕事のお給料
これは会社にもよると思いますが、私が働いていたところでは「好きでなければ転職するかも」と思ったことがある、とだけ記しておこうと思います。
それぞれの求人欄でご確認ください。
まとめ
画廊の仕事にはデメリットもありますが、それ以上に学べることが多くやりがいもあり、美術系の仕事の中でも画家活動をしていく上で非常にプラスになる仕事だと思います。
仕事をしながら絵を描いていきたいという場合、社員か非正規かどちらがオススメかというと正直わかりません。
社員にしろ非正規にしろ、画廊の仕事はそれなりにしんどい仕事です。
仕事の後に飲みに行くなど遊びに行くだけの余力がある人なら、社員でもいけると思います。
私の場合は設営などの体力仕事や長時間の立ち仕事が体にこたえ、フルタイム勤務では絵を描く余力などなかったので、日数を減らしてもらい非正規で働いていました。
あなた自身の体力や事情と相談して決めることだと思います。
色んな事がありましたが、画廊の仕事はアートが心底好きな私にとっては本当にやりがいのある楽しい仕事でした。
もちろん仕事なので沢山失敗もし、布団をかぶって泣きたいような苦しいこともありましたが、画廊に来てくださる絵画を愛するお客様達と出会えたことや、作家さんたちとの出会い、みんながアートを愛していた会社の人達と一緒に仕事を出来た時間は、本当に幸せでかけがえのない経験でした。
その経験が今になってまた役に立っているのですから、関節のことは何とも言えませんが、やっぱり画廊に勤めて頑張って良かったなと思っています。
美術系の仕事の中でも画廊の仕事の求人数は多くはないと思いますが、タイミングよく見つかり、あなたが求めている条件をクリアしているのであれば、飛び込んでみてはいかがでしょうか。
応援しています。