自分の画風の作り方|あせりは禁物?絵描きが早期に画風を決めることのリスク

画風を一目見ただけでその作家の絵だとわかる。

なんかよくわからないけど自然に描いていたらこうなっちゃう、という自分の画風がある画家さんもいれば、なかなかこれが自分の画風というものが見つからず悩む絵描きさんも多いのではないかと思います。

画風は絞った方が良いとよく言われますが、その理由と、それを鵜吞みにして早々に画風を決めてしまうことのリスクについて、私自身のリアル似顔絵作家としての画家側の経験、ギャラリー運営の企画販売側の経験、最近になってようやく自分の作風を絞った絵描きという様々な視点から画風についてお話しします。

(私の仕事の一つ、似顔絵肖像画家について知りたい方はこちらを読んでくださいね)

自分の画風は必要か

そもそも自分の画風というものは必要なのでしょうか。

それは、あなたが絵描きとしてどのような活動をしたいかによって変わります。

プロの画家(アーティスト)の場合

絵描きさん、画家さんと聞くとゴッホだとか、ピカソだとか、強烈な個性のある画風のある画家を連想する人も多いのではないでしょうか。

厚塗りの強烈な揺らめきのある風景画やヒマワリを描いたゴッホ、人物の正面と横顔を一つの絵の中に描いたピカソなど、絵に詳しくない人でもこの絵はゴッホ、これはピカソとわかるような画風があります。

あなたがもしそのようにアーティストとして絵画そのものを発表し販売していく活動をしたいのであれば、この画家さんはこういう絵を描く人だと認知されるために画風を絞る方が良い、というよりある程度は絞らなければ難しいでしょう。

それはお客様(ファン)にとって、この人のこんな絵が好きという理由になるだけでなく、展覧会などの企画や販売をしてくれる企業にとっても、この作家はこんな画風とわかりやすいと扱いやすいからです。

例えば、この人は猫を描く画家さんだから、猫イベントに合わせてサイン会を企画しようといった感じです。

イラストレーター(デザイナー)の場合

イラストレーターは画風が決まっているアーティスト寄りの人もいれば、絵画作品というより絵画素材として描くデザイナー寄りの人がいます。

アーティスト寄りのイラストレーターの場合はやはり画風ありきです。

デザイナー寄りの場合はあくまでも商品を活かすための絵ということになり、その絵を描いたのが誰かということは気にされることが少ないです。

画風を絞らないで色々描けるほうが仕事の幅は広がりますが、画風を絞ると「あなたの絵でなければ」というニーズで仕事が出来ます。

私の絵の先生は元々デザイナーですが、節操がないくらいに色んな絵が描けるため、和洋を問わず長年様々なデザイン関連の仕事をしてこられました。

画風を絞らず、色々な画風を貪欲に腕に入れることでアイデアの引き出しが増え、つぶしがきいて様々なデザインの仕事に活かされました

絵画教室の先生の場合

絵画教室には受験対策用のデッサン教室や有名な画家さん(アーティスト)が自身の画風を教えてくれる教室、子供向け、大人向けなどいくつかの種類がありますが、人に絵を教えるときに画風が絞られていると、ある技術に特化した深い学びが出来る一方で生徒さんの学べることは限定的になります。

私は子供の頃から10年ほど書道を習っていたのですが、途中から自分は草書やかな文字が好きなのだと気が付き、先生に「ひらがなを書きたい」と申し出たのですが、その先生は漢書の得意な先生で「漢字も良いよ~」と残念そうに仰り、結局その教室でかな文字を習うことは出来ませんでした。

教室を変えてまでやってみようと思わなかったこともあり、その後学業が忙しくなったことも重なってしだいに教室からは足が遠のいてしまいました。

色々な画風で描けると生徒さんひとりひとりに柔軟に合わせた教え方が出来るのではないかと思います。

自分の画風の作り方

自分の画風はどうすれば作れるでしょう。

それは数を描くことです。

まだあまり描いていない段階で画風を気にするよりも、とにかくどんどん描くことが先です。

その時にただやみくもに描くのではなく、自分が好きだと思う画家の絵を模写してみたり、色遣いをぬすんだりしながら描いていきます。

いくつも描いている間に「これはよく描けた」と自分で思える絵や、他の人から良いと言ってもらえる絵というのが出てきます。

その良かった部分を次の絵にも活かしていくことを繰り返していくうちに、自分の画風というのは自然と出来てきます。

自分の画風を絞ることのリスク

絵(アーティスト)で食べていく為には「画風を絞りましょう」という話は必ず出ますが、それはある程度描ける人、すでに絵が売れるようになってきた人の場合の話だと思います。

初心者の人やまだ技術的に課題の多い状態で「画風を絞りましょう」というアドバイスを鵜呑みにすると、その人の伸びしろ、可能性を狭めてしまうリスクがあります。

絵を売りたい人が画風を決めるリスク

私は長年ギャラリーでたくさんの絵画を販売してきましたが、客観的に見て売れやすい絵となかなか売るのが難しい絵というのがありました

それは画家ごとの画風によるものや、同じ画家の描いたものでも売れる絵と売れない絵の傾向というものがあります。

(これについては今後、別の記事で詳しく説明する予定です。)

とにかく、売れやすい絵と売れにくい絵は確実に存在しています

売るために描いているわけでない画家さんも沢山いらっしゃると思いますが、絵を売りたい人が売るのが難しい絵を「自分はこういう画風の画家だ」と決めて突き進んでしまうと、先々苦しい思いをするのではとも思います。

初心者が画風を決めるリスク

まだ技術的に初心者という場合、自分の好きと思う画風をまねることから始めるというのは楽しく描くことや継続して描く為にとても良いことだと思います。

ただ、早い段階で「私はこういう画風の画家になる」と決めて同じような絵ばかりを描いていると、やがてなかなか上達しないという壁にぶつかります

それは限られた技術のみで描こうとすることにより、どうしても一定のレベルで止まってしまうからです。

私が自分の画風を捨てた理由

私が今の絵の先生に出会った初めのころ、自分の描いている絵を持参し、売りたいという前提で絵を見ていただいたところ「こんなん捨て」と言われてしまいました。

何を言われても自分の画風を通してしまうことは出来たのですが、私は即答で「はい、捨てます」と応えていました。

それは、なにがなんでも上達したい、絵を仕事にしたいという一心からでした。

自分の画風を捨てたものの、何を描いたらいいのかはさっぱりわかりませんでした。

私のところの師弟関係というのは一般的な絵画教室のように先生がカリキュラムを作ってくださって与えられた課題をこなすというような親切なものではなく、こちらから何がしたい、何を学びたいか言わなければ「描きやー」と言われるばかりで教わることが出来ません。

色々相談しながら描き始めたものの、元々自分が描きたいと思っていた画風とかけはなれたものを描くようになり、はじめのうちはかなりしんどかったです。

しんどかったですが、みなさんデッサン教室などで描くものは必ずしもあなたの描きたい絵ではないと思います。

描きたい絵以外のものを描くというと猛烈に批判する方がときどきおられますが、デッサンを勉強するのと同様の基礎練習をしていただけなんですよ。

そして「しんどいながらも何を描いても面白かった」というのが、本当のところでした。

メルヘン、人物画、動物、風景、抽象画、日本画(吉祥画)、文字、水彩、水干絵具、色鉛筆、クーピー、クレパス、カラーインク、エアブラシ、金箔など、とにかく色々描いていくうちに絵は少しずつ上達していったので、途中から自分で営業に出かけて肖像似顔絵など絵の仕事を始め、ネット販売で自分の絵も時々売れるようになっていきました。

一方その数年の間に、知り合いの画家さんの中には自分の画風を貫いて大きな仕事をされたりX(旧Twitter)でバズって人気が出たりする人も現れ「私こんなことしてて大丈夫かな、これで合ってるのかな」と不安になることは何度もありました。

はじめ、教わりながら描いていたそれぞれのジャンルの絵は別々の点でした。

それが数年かけて徐々に技術として腕に入りだし、最近になってやっと別々の点だったものがつながり始めました。

抽象画を描いた経験が絵のマチエール作りのアイデアになったり、花や日本画を描いた経験が似顔絵(肖像画)を描くときの画面処理のテクニックに活かせたり、文字をのびのび描いていたら、生き生きとした植物を描くのに応用出来たなど、技術が相互に作用しあうようになっていきました。

それは「こんなん捨て」と言われたとき、ぼんやりと想像していた手に入れたかったものの一つです。

画風を決めないとソンする?

画家(アーティスト)は画風を絞った方が良いと先ほども書きましたが、画家として活動するために画風を決めないと損するものでしょうか。

「○○を描くアーティスト」としてプロデュースするなら表向きは絞った方が良いけれど、発表するかどうかは別として色々描けばいいのではないかと思います。

アイデアの引き出しは沢山あった方が、絵の奥ゆきも出ますしあなたの可能性が広がります。

私の先生の友人でカレンダーや雑貨を日本全国で販売されている人気の画家さんがいますが、実はその方は本当に描きたい画風は別にあるけれど、世間一般にはこっちの画風がウケたので、そういう絵を描く画家だと思われているそうです。

画風を複数持っていると、生きていくための手段が増えるという良い例だと思います。

私自身は雅号が3つあり、似顔絵(肖像画)の仕事用、師匠から引き継いだ吉祥画用、自由に創作するミラと使い分けています。

画風がありすぎると何を表現したいのかわからない、わけがわからないと揶揄されることもあります。

たしかに企画展や公募展などに出展する場合「わたしはこういうコンセプトでこんな絵を描く画家です」というアーティストステートメントがある方がわかりやすく、喜ばれる傾向があります。(海外ではこれがないと相手にしてもらえないようです。)

それなら、頭を柔らかくして自分の持ち駒の中からその企画に合う画風をチョイスすれば良い、という考え方もあります。

作家側が作風を厳選して作品を用意しても良いし、企画運営会社がテーマをしっかり絞ってキュレーションするという方法もあると思います。

色々描くとどれも中途半端で絵のクオリティーが上がらない、ということでもありません。

色んなジャンルの技術が身に付いてくると合わせ技で総合的にクオリティーの高い絵が描けるようになっていく、というのが色々描いてきて実感したことです。

画風の目的ごとの考え方 (まとめ)

これからどういう方向に進みたいかによって画風を絞るかどうか、絞る時期などの考え方は変わると思います。

趣味で作家を目指す人

趣味として絵を描いていくなら、難しく考えずあなたの好きな画風ではじめから活動されると良いと思います。

プロの画家(アーティスト)を目指す人

プロの画家(アーティスト)を目指すなら独自の画風が必要です。

でも、あせらなくていいと思います。

画風が決まらないうちに色々な描き方をしてそれも腕に入ってしまえば、将来的に画風を絞ったときに必ず役に立ってくれます。

初心者の人

初心者の方は初めから色々描くと混乱するので好きな画風をまねることから始めると良いと思いますが、少し慣れてきたころに興味があれば色々違った題材で描いたり、画材も変えてみるなど挑戦されると作風の可能性が広がると思います。

絵画教室の先生

ひとつの画風を深く教えるなら画風はシッカリあった方が良いし、生徒さんひとりひとりの描きたいものに沿って教えることを目指す場合には、色々な画風で描けると細かく対応しやすいと思います。

イラストレーター、デザイナー

イラストレーターやデザイン系のお仕事の方は画風に関してはどちらもアリで、画風をしぼるのも良し、色々描ける方は仕事の幅が広がってプラスになると思います。

画風はあわてて絞らなくていい

私のようにあれもこれも手を出す画家は多くはないと思いますし、正直そこまでしなくても良いとも思います。

ただ実際に色々描いてみて良かったのは、絵を描く基礎体力がつき全体的にクオリティが上がったこと、応用がきいて客注品のピンチの時も合わせ技で上手く乗り切れたこと、アイデアの引き出しが増えて自信がついたことなど、無駄なことはひとつもありませんでした。

似顔絵の仕事の取引先企業には肖像似顔絵以外の新しい商品をプレゼンし、取り扱っていただけることにもなりました。

これも色々描いているからこそ出来た提案でした。

私の場合は回り道になり不安なこともありましたが、沢山描くうちに自然と「こう描きたい」という方向性は後からついてきました。

回り道しなかった場合より、相乗効果できっと面白い深みのある作品を作れるようになるのではないかと楽しみにしています。

画風は試行錯誤しながらたくさん絵を描き続けていれば、やがて自然と定まってくるもの。

画風を早めに絞った方が良い場合もありますが、あなたの可能性を狭めてしまわないように、あせらなくてもいいのではと思います。

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MIRAデザイン画家
絵が上達したい・自分の描いた絵を売ってみたい人へ、上達のヒントや画家活動の悩みの解決方法、画材などについて発信しています。 以前は画廊に勤め毎日絵を販売していました。 現在は師匠と吉祥画を制作販売したりリアル系似顔絵の注文を受けたり、絵画講師をしながら独自の支持体と不透明水彩、金箔などを使って絵を描いています。 ブログに書ききれない情報はメルマガで。 一生役立つ水彩画のテクニック講座が気になったら、おトクなオープニング価格のうちに体験してみてくださいね。 2025年2月、大阪堺筋本町の誠華堂にて展示。