似顔絵師になりたいと思っている人、これから仕事にするために似顔絵の描き方を習いたいと思っている人へ。
私はプロという立場で似顔絵(肖像)作家をしています。
ギフト商品を扱うECサイトで3年半程(2022年投稿時)委託で販売していただいています。
似顔絵師になるにはどうすればいいか、実際の似顔絵師の仕事ってどんなものか、メリットやデメリット、実際の似顔絵の仕事の流れなど、似顔絵師を目指す人にリアルなお話しをしようと思います。
今後の活動のご参考に、ぜひ最後まで読んでくださいね。
もくじ
似顔絵師になりたいと思った理由
似顔絵師と言っても、私の描いているものはイラストというよりはソフトな肖像画という感じ、リアル系似顔絵です。
取引先を通して販売しているため実際のお客様の似顔絵を掲載することは出来ませんので、参考作品をのせておきますね。
もともとは似顔絵師になることが目標というわけではありませんでした。
そんな私がどうして似顔絵師になりたいと思ったかを、まずお話ししようと思います。
絵が上手くなりたい
似顔絵師になりたいと思った一番の理由は「絵が上手くなりたい」からでした。
私は芸大を中退した後ギャラリーで働き、たくさんの絵画を販売してきました。
その仕事に燃え自分の絵は趣味で描いていくのだと思っていた頃もありましたが、しだいに他の人の絵を売るよりも自分の絵を売ってみたい、趣味としてではなく本格的に仕事として描きたい、上手になりたいと思うようになりました。
私は絵を勉強するために生徒の募集をしていない作家さんに手紙を書き絵を教えてもらったり、市販の絵の参考書をお手本に練習するなど試行錯誤していましたが、絵画の販売の最前線にいた人間の感覚として「絵を売るのが一番早く上達する方法」と気が付いていました。
それも、個人で知り合いなどに買っていただくのではなく、企業と契約しプロとして、お会いしたことのない方に買っていただくのが一番鍛えられると感じていました。
似顔絵師の仕事というのは、お客様がお金を先払いしてオーダーしてくださり、それを期限内にプロとしてのレベルをクリアした上でお客様に喜んでもらえる、お客様の期待を超える作品にして問題なく納品すること。
確実に絵を描く技術が鍛えられる環境だと思いました。
似顔絵師になる方法
似顔絵師になるには、まず似顔絵をたくさん描くことです。
何枚も描いて人に見てもらい正直にOKかNGか反応をもらい、素人っぽくないレベルの品質の絵を毎回安定して描けるようになったら営業します。
営業といっても最近は「似顔絵師募集」なんて求人が出ていたりしますので、そこに応募すれば早いですが、別に募集していなくても「良いな」と思った似顔絵屋さん宛に資料を作ってメールや郵送すれば良いと思います。
送って怒られることはありませんし、たとえ募集していなくても魅力的で売れそうな絵であれば、良い返事がもらえることもあると思います。(募集していませんとわざわざホームページなどに記載のある所は避けた方が良いかもしれません。)
私の場合は何度か企業の集まるイベント会場へ飛び込み営業に出かけ、大手企業から単発のペットの似顔絵のお仕事をいただき、それを作家活動の履歴にも書いてまた郵送やメールなどで営業し、お返事をいただいたところへ後日改めて絵を持参し見ていただいて採用となりました。
似顔絵師に資格は必要か
似顔絵師になるには似顔絵師の資格をとったりどこかに登録しなくてはいけない、ということはありません。
私の場合は資格をとったり似顔絵の描き方の教室などに行かず、個人で営業してお仕事に繋がりました。
似顔絵師の仕事の流れ
私の似顔絵師としての実際の仕事の流れはこんな感じです。
WEB広告やECサイト内の私の商品サンプルを見て、お客様がご注文
ECサイトを運営されている企業の担当者様からメールが届く。そのメールでお客様のお写真データや注文内容の詳細を確認
オーダーにそって期限内に仕上げ、画像を担当者様宛にメールし、OKの返信が来たら納品書を添付してショップ宛に発送(お客様へはショップから発送)
締日が来たら請求
お客様とのやり取りはすべてショップでしてくださるので、作家は描くことだけに集中出来てとてもラクです。
似顔絵師になることをオススメしない理由
私はこれから本業として似顔絵師になりたいという方には、正直なところあまりオススメはしません。
値段が安い
似顔絵師になるのをオススメしない一番の理由は、値段が安いことです。
これは企業と委託契約することで、売上から自分が受け取る金額が減ることも関係していますが、そもそも商品価格が安いです。
似顔絵という商品は珍しいものでなく、おおよその価格帯もすでに出来上がってしまっているジャンルの商品です。
私の似顔絵はリアル系ということもあり、若干高めに設定していただいていますが、ショッピングモールなどで15分程で2・3千円で描いてもらえるイメージが広くいきわたっているため、どんなに丁寧に描こうと一般的な絵画のように高い価格を付けることが出来ません。
オーダー内容が細かい
似顔絵のオーダーって、とても細かな注文が多いです。
顔はこの写真で、髪型はこの写真、ポーズはこうで、服はフォーマルっぽくしてほしい、ちゃんちゃんこを着せて、など。
服の指定はあっても、お客様が資料を用意してくださることはほぼありません。
私はどんな要望が来てもサッと描けるように、注文のありそうな服の資料などは予め集めて用意してありますが、この値段で追加料金なしでここまで手厚く描いていて良いものだろうか、と思う瞬間はよくありました。
評価がシビア
似顔絵ですから、絶対に避けて通れないのが「似てる、似てない」問題です。
ギャラリーで働いていた頃、似顔絵ではありませんでしたがオーダーの依頼があり、作家さんに描いていただいたものの、お客様が完成した作品を気に入らないという理由で購入をキャンセルされたことがありました。
オーダー商品というのは作家さんが着手した時点で役務が発生していますので、本来ならお客様が気にいるかどうかに関わらず、料金を支払っていただく必要があります。
けれども、お客様の中にはキャンセル不可とご了承の上でオーダーされたにも関わらず、後になってキャンセルしたいと仰る方が稀にいらっしゃいます。
そんな時ややこしい対応はショップとお客様の間で完了し、通常作家の耳には入りません。
ショップが作家を守ってくれているのです。
そういう事情を知っていることもあり、もちろんお客様に喜んでもらえるものを描くのが一番ですが、ショップに迷惑をかけない為にも絵としての完成度より似ていることがまず最優先になります。
似顔絵師になるには、自分の描きたい絵とある程度折り合いを付けられるかどうかもネックになると思います。
自由に描けない
似顔絵はオーダーが細かいと先ほども書きましたが、このお客様からのご要望が多ければ多いほど自由には描けず、作家の持ち味を出せなくなります。
服の色などに細かな指定があると、どんなに色のトーンを合わせてみても、画面全体の構成としてお洒落な感じに仕上げることが難しくなります。
作家さんおまかせというオーダーの時の方が絵としての完成度は高く、結果的にお客様の満足度も高いように思います。
似顔絵という絵の特性上、絵描きとしての本来の自分の力量が出し切れず、価格も自分の思うようにコントロールしにくい仕事と予め覚悟していた為、私はミラとは別に似顔絵専用の作家名を作りその名前で販売していただいています。
似顔絵師になって良かったこと
さんざん似顔絵師のマイナス面ばかりお伝えしましたが、なぜ私が3年半の間(2022年現在)似顔絵師の仕事を続けているかというと、良いところもちゃんとあるからです。
笑顔で仕事が出来る
似顔絵の資料として送られてくるお写真って、大抵笑顔です。
時々笑顔でないものもありますが、それは笑顔に描いて仕上げます。
この笑顔の写真を見ながら笑顔を描くという行為が、精神衛生上とても良いのです。
描いている間中ずっと誰かの笑顔を見ていられるのですから、気が付いたらつられて自分もニコッとしながら描いています。
お祝い事に関わることが出来る
似顔絵を購入しようというのは、ほとんどがお祝い事のときです。
お客様の大切な人生の節目のお祝い事に関わらせていただけることは、本当に嬉しいし誇らしいことです。
絵が上達する
これは私が似顔絵師になった理由ですが、やはりこれだけの制約の中できちんと絵を仕上げて納めるという仕事を積み重ねると、確実に絵を描く技術は向上します。
似顔絵そのものも描くほどに上達しますが、様々な要望をお聞きしながら毎回ベストを尽くす中で描くのが難しかったけれど完成させられたときに覚えたテクニックというものは、似顔絵以外の絵を描くときにも活きてきます。
描くスピードや要領の良さ、スッキリと仕上げる技術などは「出来ません」が選択肢にないオーダー品を描かせていただいているからこそ身につけることが出来たと思います。
リモートワーク
受注型の似顔絵の仕事は完全リモートワークです。
好きな時間に始めて好きなときに休憩し、職場の面倒な人間関係などもありません。
もともと体が丈夫でない私にとっては自分の体のペースに合わせて出来る仕事なので、本当にありがたいと思っています。
あたたかな気持ちになれる
似顔絵を注文される方は家族仲がとても良い方が多いです。
考えてみれば当然かもしれませんが、母の日、父の日、敬老の日や長寿のお祝いに似顔絵を贈ろうなんて仲が良くなければしませんよね。
仲睦まじそうなお写真を見せていただき、その笑顔に幸せを祈りながら描かせていただくとき、私もフワッとあたたかで幸せな気持ちになるのです。
そんな気持ちでこの仕事が出来るとは似顔絵師の仕事をはじめる前には思いもしなかったことでしたが、生きる上で大切なことを教えていただいている気がします。
お客様に喜んでもらえる
ハンドメイドマーケットでは購入後のレビューは挨拶やマナーと考えている人も多く、比較的書いていただきやすい仕組みになっていますが、独立したショップの場合、お客様にレビューをいただくのは簡単なことではありません。
それにも関わらず、お客様がわざわざ喜びの感想を送ってくださったときは本当に嬉しいものです。
感想は送っていただかなくてもオーダーをリピートしてくださる場合があり、本当に喜んでいただけたのだと知ることが出来た瞬間は「この仕事をしていて良かった」「一生懸命描いて良かった」と心から思います。
自分の手で描いたものが誰かの喜びになるというのは本当に幸せなことです。
似顔絵師になりたいと思っている あなたへ
似顔絵師になりたい方にオススメしない理由、なって良かったことを長々とお伝えしてきましたが、これはあくまでも「自社ではないショップで取り扱ってもらう」ケースのお話です。
金額が安いという問題については、よそに販売を委託せずに自分でショップを構えれば、売上のほとんどを自分が受け取ることは可能です。
ただし、お客様との細かなやり取りやトラブルの対応、広告の出稿などの集客も自分で行う必要があります。
もしも本業として似顔絵師になるには数をこなさなくては食べていけませんので、短時間で沢山描くことの出来る描き方で描く必要があります。
そしてそれだけ沢山売れなくてはいけませんが、それは画力の他に営業や広告(集客)にどこまで力を入れるかによって結果はかなり変わると思います。(私は最終目標が似顔絵師ではないこともあり、時間はかかるけれど自分の好きな丁寧な作風で描くことを選び、似顔絵の仕事以外にも師匠のアシスタントなど他の仕事もしています)
作風に関しては、どこかのショップにおいてもらう場合、すでにそのショップで取り扱われている似顔絵と作風がかぶる場合は採用されない可能性が高いと思います。
これから似顔絵師になるには、あくまでも私個人の考えではありますが、これまでに市場に出回っているような似顔絵イラストはあまりやらない方が良いのではと思います。
それは作家を抱えている企業さん側から見ると、すでに抱えている作家さんと同じような絵柄より少し違った絵柄の方が商品のバリエーションが増えることになるので、採用のチャンスがあると思うからです。
似たような絵柄の場合、値段も先に販売している作家さんに合わせる形となり融通が利きません。
同じような絵であれば、次に起こることは価格競争です。
すでに「お安く」という言葉でアピールしているECサイトも存在しています。
絵を描くという行為をあなたは安売りしたいですか。
そうならない為には、今までの似顔絵とは違うあなた独自の作風で、これからの時代に合う新鮮な要素を取り入れたものにして安売りされないような作品を描くほうが先が明るい気がします。
出来ればあなた自身にファンが付くような形で集客し、あなた独自のショップで販売するというのが、これからの時代にあった似顔絵師のやり方ではないかとも思います。
食べていくための仕事として選ぶと、似顔絵師の仕事は大金を稼げる仕事ではないと思います。
ただし、この仕事から学べることも沢山あります。
私の場合はアトリエ画家ですが、お客様と対面で描く作家さんの場合はお客様との出会いが人生にとってプラスになると思います。
似顔絵師になりたい方はそのあたりをよく考えてチャレンジするかどうかを決めたら良いと思います。
私は似顔絵のお仕事は4年間ほどしていました。
この記事を追記している2024年現在は似顔絵のお仕事はほとんどしていません。(お問い合わせが来た時に対応する程度になりました。)
似顔絵師としてお仕事をいただいていた頃、無名の私のために広告まで出して応援してくださった企業にも「この作家さんはうちが育てたんだよ」と誇りに思っていただけるように、これから絵の活動も人間的にももっと成長していきたいと思っています。
似顔絵の仕事は労力と天秤にかけると値段はきびしいものでしたが、毎回喜びをもって取り組めた仕事であり幸せな経験でした。
似顔絵師の仕事を経験できたことで絵も上達し、現在の絵の活動につながっていきました。
絵を描くお仕事って、面白いですよ。
似顔絵師のことも含めた画家活動について詳しく知りたい方のために6日間のメール講座を作りました。
リアルな経験をもとに書いた具体的な内容となっていますので、気になる方は【画家活動のきほん講座】もぜひ読んでみてくださいね。