額装マットをどのように選んでいますか。
マットは無難にホワイト系を選んでいる方が多いと思いますが、選び方を間違うとせっかくの絵がくすんで見えることも‥。
絵に合うマットをしっかり選ぶと、作品の見映えがグッと良くなる素敵な額装にすることが出来ます。
額装マットの必要性、種類や特徴、色の選び方と組み合わせのテクニック、注文する時の注意点について、額装の仕事をしていた経験をもとにお話しします。
額縁の選び方やオーダーメイドで額装するときの記事もあわせてどうぞ。
もくじ
額装マットとは
額装マットとは、絵などを額縁にセットする時、絵と額縁の間にある、絵の周りを囲む台紙のこと。
大抵四角く窓状にくりぬかれていますが、円型やアーチ型、ハートなどの特殊な抜きのものもあります。
額装にマットは必要か
額装マットは通常2mm前後の厚みがあります。
絵などを額装する際や、絵を紙の状態で保存する際に厚みのあるマットを付けることで、絵の表面が額縁のガラス面や重ねた他の紙に張り付き劣化することを防いでくれます。
また、絵は直接額縁に入れるよりもマットを付けた方が上品な高級感が出ます。
逆にマットを付けず、直接額縁に入れる額装にした場合は素人っぽい雰囲気になりがちです。
額装マットの種類
額装マットは台紙の表面に紙を貼ったもの、布を貼ったもの、マット断面に色のついたもの、金や銀の飾りのついたものなどがあります。
作品保護に適した中性紙の台紙が使われていることが多いです。
紙マット
額装マットで一番使われているもので、台紙表面に紙が貼られています。
紙の表面にエンボスのあるタイプ(水彩紙等)と平らなタイプがあり、平らなものの方が価格は若干手頃ですが、わずかな違いでもエンボスのあるマットの方が高級感が出ます。
カラーマットなどは平らなものしかない色もありますが、ホワイト系は何種類か選べる場合が多いので、表面にエンボスのあるものを選ぶことをオススメします。
平らなタイプは表面をこすってしまったとき、光の当たる角度によってスレた跡が目立ちやすいので、扱うときは注意しましょう。
布マット
台紙表面に布が貼られているものです。
ホワイト系でも布マットにすることで、やわらかで落ち着いた雰囲気になります。
温かみがあり、さりげなくボリューム感や高級感を出すことが出来ます。
リネンが使われているものはシンプルなドローイングやエッチング作品に合わせるとお洒落です。
スエードは非常に存在感のあるマットなので、重量感(見た目)のある作品でないと作品が負けてしまう場合があります。
作品の他、賞状やメダルなどにもよく合う高級感のあるマットです。
表面をこすると跡に残りやすいので取り扱いには注意しましょう。
昔ながらのイメージの和柄のマットもあります。
和風の作品や書、賞状用に使われています。
面金(めんきん)、面銀(めんぎん)
額装マットをカットした内側の枠部分に金や銀のライナーが付いたものをそれぞれ面金、面銀といいます。
これはマット加工のオプションとして、ほとんどの種類のマットにつけることが出来ます。
額装にボリューム感や華やかさ、高級感をもたらします。
面金加工の料金はおよそマット1枚分位のお値段だったかと思います。(マット代+面金加工代がかかります。)
ラインマット
額装マットをカットした断面に色のついているものをラインマットと言います。
カラフルな色のラインマットはカジュアルな印象になります。
作品の周りをキュッと引き締めるイメージになりますが、作品の雰囲気がフワッとひろがるのを邪魔してしまう場合があるので、よほどのこだわりがなければ使わなくて良いかなというのが私個人の感想です。
作品の雰囲気のひろがりを邪魔せずにほんのりラインで囲む方法としては、ラインマットよりもホワイト系のマットと淡い色のマットを重ね、下の段の色をライン状に見せる方が自然で高級感も出ます。
ラインマットでオススメするとしたらブラックです。
マットの断面は基本的に白いものですが、ブラックのカラーマットの場合、わずかに見えるマットの断面もブラックにした方があかぬけて見えます。
ダブルマット
額装マットを2枚重ねたものをダブルマットと言います。(3枚重ねるとトリプルマット。)
重ねた上のマットの抜き寸を下のマットよりわずかに大きくすることで段を作り、奥行き感と高級感のある額装が出来ます。
同じホワイト系のマットでダブルマットにすると、1枚だけのときに比べて絵がキュッと引き締まり見映えが良くなります。
下の段にカラーマットを使うことでラインマットのような効果を作ることも出来ます。
ラインを作るときはカラーマットを淡い色にしたほうが馴染みやすい印象です。
面金加工にするときやカラーマットでダブルマットにするときは、サイズの出し方に注意が必要になります(ホワイト系のダブルマットと同じようにすると失敗します)ので、別記事のサイズについての内容も参考になさってください。
特殊な抜き型
額装マットは四角い抜きが基本の形ですが、楕円形やハート形など、特殊な加工をしてくれる額縁屋さんもあります。
額装マットの色の選び方
額装マットはホワイト系でも数種類あり、作品や合わせる額縁によって使い分けるとより見映えが良くなります。
カラーマットは合わせるのが若干難しくなりますが、上手く合わせると抜群にお洒落になったり高級感を出すことが出来ます。
ホワイト系のマットの色の選び方
ホワイト系の額装マットには、真っ白なものとわずかに温かみのあるアイボリー系のものがあります。
オススメはアイボリー系
中身を問わず何にでもよく合う額装マットはアイボリー系のマットです。
風景画、花の絵、抽象画、浮世絵、銅版画、切り絵、などなど、何にでも自然な感じでよく合います。
額装マットのまとめ買いをしてストックしたり、額縁の中の絵をよく入れ替えるという方はアイボリー系が間違いないです。
よりあたたかな雰囲気にする場合は、アイボリーよりわずかに色のついたクリーム系にしたり、布マットにするのもオススメです。
真っ白なマットが合う額装
あえて真っ白な額装マットを選んだ方が良い場合もあります。
それは額縁の色が真っ白な場合です。
真っ白なうえにツルンとした質感の額縁の場合、アイボリー系のマットを合わせるとくすんで見える場合があるので、真っ白同士で合わせる方がきれいです。
この真っ白な額縁やマットは、にごりのないパステルカラーの作品やブルー系の作品、写真によく合います。
ただし、真っ白な額装には注意も必要です。
真っ白いマットや額縁はキレイすぎて、絵や壁がにごって見える可能性があるのです。
「(真っ白な額を)部屋に飾ったら壁が汚いことに気が付いた」というのは、画廊で働いていたときに複数のお客様から聞いたことがあります。
アイボリー系の額縁に真っ白なマットというのも、額縁が黄ばんで見えたりするのでオススメしません。
真っ白なマットは絵そのものの色を綺麗に見せてくれるメリットもありますので、マットを真っ白にして額縁は金か銀を選ぶというのもオススメの方法です。
カラーマットの選び方
カラーマットを選ぶ前提として、出来る限り店頭で選ぶかECサイトでも注文する前にコーナーサンプルを取り寄せるなどして、実際の色味を確認することを強くオススメします。
額縁の場合はもともとビビッドな色ではないので、ECサイトで購入したとき、モニターで見た色と多少違っても許容範囲内であることが多いのですが、マットの色のイメージ違いは使えないレベルの場合も多いので、実物を見ていないと失敗する可能性があります。
そしてその「イメージと違う」というのはECサイト側の責任というより、主にスマホやパソコンなどのモニター側の理由です。
私のパソコンはデザイナー向けに色を合わせたモニターを使っていますが、あくまでもモニター上で光って見えている色なので実物とは異なりますし、iPhoneなどデバイスによって青みが強めだったり、彩度がやや高めで鮮やかに見えているものもあります。
ブルーライトカットのシートなどを貼っているとやや黄色がかった色に見えます。
額装マットは絵と直接隣り合うものなので、絵と色味が合わないとマットが悪目立ちし、絵の邪魔になってしまう場合さえあります。
サンプルを取り寄せずに購入する場合は、絵を描く前に購入しておき、マットと色を合わせながら絵を完成させるという方法がオススメです。
マットサンプルはお店によって、お買い物の時に希望の色を数色無料で同送してくれるところや有料で取り寄せることの出来るところがあるようです。
小さなカード型だったり小さな四角窓の抜きのあるタイプだったりとそれぞれですが、窓の抜いてある正方形タイプのサンプルの場合は、届いたら自分で一方向だけカッターナイフで対角線上にナナメにカットして使います。
カットすると店頭のサンプルのように絵のコーナーにピタッとそわせることが出来ます。
アンティーク風な額装に合うカラーマット
ヨーロッパのアンティークのような雰囲気の額装にしたい場合にオススメのカラーマットの色はボルドー系とライトグレーです。
ボルドー系(暗い赤、やや紫がかった暗い赤)のマットの場合、背景に白(紙はアイボリーやナチュラルがオススメ)を残した線画や水彩画(色に注意)、銅版画などを入れると雰囲気が出ます。
ライトグレーのマットはボタニカルアートと合わせるとアンティークな雰囲気とともに、花の色を綺麗に見せてくれます。
ボルドー系、ライトグレーともに、額縁はゴールド系(アンティークゴールド)がよく合います。
和風な額装に合うカラーマット
和風な額装によく合うカラーマットの色はネイビーやブラウンです。
ブラウンのマットは落ち着いた雰囲気になり、ネイビーのマットは日本画の赤い色を際立たせ、お洒落な額装に仕上がります。
浮世絵の額装にもオススメです。
ブラウンに合う額縁はチャコールやアンティークゴールドなど。
ネイビーに合う額縁はダークブラウンがよく合います。
ロマンティックな額装に合うカラーマット
ロマンティックで可愛い雰囲気の額装に合うカラーマットの色はパステル系のピンクやブルー(サックス)です。
この色は淡いようで実際に額装してみると色の主張が強めなので、合わせるのが若干難しいです。
カラーマットだけではちょっと合わせにくいという場合は、ダブルマットにして上のマットはホワイト系、下のマットにカラーマットを使ってラインとして見せると、さりげなく可愛い雰囲気を出せますので試してみてください。
額縁はホワイトのデコラティブなデザインにすると、甘くてかわいい雰囲気が出ます。
シルバーの額縁も合います。(もちろんデコラティブ。)
お洒落な額装に合うカラーマット
高級感のあるお店に飾ってありそうなお洒落な雰囲気の額装に合うカラーマットの色はオレンジとパステル系のブルー(サックス)。
ファッション画(色に注意)やクロッキー調の作品をオレンジのマットと合わせるとお洒落です。
ロマンティックな額装にオススメだったサックスのマットは、モノクロ写真のような作品と合わせるとまた全然方向性の違ったお洒落な額装になります。
オレンジのマットにはダークブラウンの額縁、サックスのマットにはシルバーの額縁がオススメです。
日本趣味の高級感ある額装に合うカラーマット
日本趣味的で高級感のある額装に合うカラーマットの色はブラックです。
黒いラインの美しい切り絵やアールデコ調の絵などを額装するときにブラックのマットを使うと、凄みのある美しい額装になります。
面金や面銀を使うとより高級感が出ます。
面金や面銀を使わないときは、出来るだけマット断面もブラックの色が付いたものにすると画面が引き締まります。
額縁の色はブラック、ゴールド、シルバーがオススメというより、他の色はオススメしません。
ゴールドのときは面金、シルバーのときは面銀にして色を合わせましょう。
ともすれば悪趣味になるキケンもなくはないですが、ピタッと合えば圧倒的な存在感と高級感のあるカッコ良い額装が出来上がります。
カラーマットを選ぶときのポイント
カラーマットを選ぶときは、色が絵と合っているかということ以外にも気をつけた方が良いことがあります。
色の見える面積
カラーサンプルやECサイトの画像で見るカラーマットは実際の額装サイズの完成形を見ているわけではありません。
小さな画像や作品の一角だけにあてがうサンプルでは丁度いいと思っても、絵のぐるりを広範囲にカラーマットが囲むと思っていたよりもマットの色が濃く見えたりしつこく感じてしまう場合があります。
コントラスト
カラーマットの額装はともするとマットが浮いて見えてしまいます。
マットの色が絵と額縁両方の色に対してコントラストが強すぎると、悪目立ちする原因になります。
特に明度のコントラストに注意し、額縁とマットのコントラストが強い場合はマットと絵のコントラストを弱く、マットと絵のコントラストが強い場合はマットと額縁のコントラストを弱くすると合わせやすくなります。
額装マットの選び方 まとめ
額装マットは基本はホワイト系にしておけば何にでも合わせやすいですが、素材を布にしたり面金を付けたりダブルマットにすることで高級感を出せます。
上手にカラーマットを合わせることが出来れば、とてもお洒落な額装に出来ます。
カラーマットについてはイメージ違いの失敗がやや起こりやすいこともあるので、実物の確認が出来るのであればしておく方が良いです。
私の場合はECサイトでの注文はイメージ違いが起こる前提で、気になるカラーマットを数種類、規格サイズでまとめて注文して手元に置いています。
手元に置いておくとストックしている色んな額縁に実際に合わせてみることも出来、全然合わないとか、意外に良いとか発見もあります。
マットを付けることで美しくプロっぽい額装になりますので、展覧会や絵の販売を考えている方は上手にマットを活用してみてくださいね。
作品保護と見た目の両方の観点から、額装する際にはマットを付けることをオススメします。