最近SNSなどでもちょこちょこ話題にのぼるギャラリーストーカー。
特に若い女性の画家さんや画学生さんは、そういう話を見聞きすると怖いと感じるかもしれません。
でも実は女性だけでなく男性の画家さんでも、怖いと感じる経験をされた話を耳にしたことはあります。
私自身は個展でお客様にしつこく絡まれたなどという、作家としてギャラリーストーカーにあった経験はありませんが、画廊に長く勤め様々なお客様を接客していましたので、画廊の仕事の経験からの応用で、ある程度はギャラリーストーカー対策も出来そうだなと思っています。
個展や在廊に不安を感じる場合は、これからご紹介する方法がいくらかお役に立てるかもしれません。
ギャラリーストーカーとは
ギャラリーストーカーという言葉は私はわりと最近になって知った言葉で、画廊で働いていたときには聞いたことがなかったように思いますが、対応に困るお客様に出会ったことはありますし、それはギャラリーに限ったことでなくあらゆる接客業で似たようなことは起きているのではないかと思います。
ギャラリーストーカーとはどんな人を指すのか、メディアなどで取り上げられている実例などからザックリまとめると次のようなことと考えられます。
- 連絡先を聞いてくる
- 食事などに誘う
- 無理に写真撮影を求めてくる(勝手に撮影する)
- 長話(作品と関係ない話など)をして作家を離さない
- 作品について高圧的に説教する
- 作家に性的な話をする
- つきまとう
- 自宅などに呼び寄せ性的な関係を迫る
食事に誘うとか話が少々長いなどは双方の関係性にもよるので必ずしもストーカーとひとくくりには出来ませんが、どの例にしても作家との距離感がおかしい状態です。
どこからがギャラリーストーカーなのか
どこからがギャラリーストーカーなのかは他の様々なハラスメントと同様に「ここからです」という厳密な線引きがむずかしく、画家を困らせたら即ギャラリーストーカー認定されるかというと、全てが全てそうとも言えないんじゃないかというのが私の個人的な感想です。
ギャラリーストーカーあるある例をネット上で目にしたことがありますが、ストーカーというよりは接客の仕事をしているとそれほど珍しくない対応に少々困るお客様という感じの例もあるかなと思いました。
話が一方的で長いなど対応に困るお客様というのは、免疫のない学生さんなど若い方にとってはすごく変な人に見えているかもしれませんが、ある程度接客業に慣れている人なら笑顔のまま毅然と対応して特別波風立てずにお帰り頂くこともできる気がしました。
他のハラスメントと同様に、相手の尊厳を傷つける迷惑行為と考えてみるとわかりやすいかもしれません。
同じ出来事でも人によって受ける不快感などは個人差もありますが、ギャラリーストーカーとは相手が望んでいないのに、自分の都合の良い考えで相手の気持ちをないがしろにして一方的に距離を詰めてくる迷惑行為なのかな、と私は考えています。
断っているのにしつこくデートに誘ってきたり連絡先を本人や周囲の人に聞いてきたり…つきまとうというのはさすがにアウトで、ギャラリーストーカー呼ばわりされても仕方ないでしょう。
お客様は選べない
大前提として、通常は画家はお客様を選べません。
一見さんお断り、新規の方は顧客さまからのご紹介のある方のみ、という方法をとれる画家さんはどこかにおられるかもしれませんが、ほとんどの方はそうではないはずです。
展覧会をすれば誰が観に来るか、誰が絵を買うかは選べません。
清楚な女性に買ってもらいたいと思っていた絵をもじゃもじゃの髭のおじさんが買っていくかもしれませんが、そういうことが気になりだすと絵は展示したり販売出来なくなってしまいます。
個展をしたり絵を販売するとき、お客様は自分にとって都合の良い方ばかりでなく、いろんな方がいらっしゃるものだと理解し心づもりをしておくことが、ギャラリーストーカー対策以前に必要だと思います。
ギャラリーストーカー対策
実際に出来る対応について考えていきましょう。
ギャラリーストーカー対策① 毅然とふるまう
マネージャーのような立場の人がついて守ってくれているのでない限り、展覧会で在廊したり絵を販売するときには、あなたは画家であると同時にビジネスパーソンであるという意識を持っていた方がよいと思います。
これまで私はたくさんの画家さんにお会いしてきましたが、画家さんは感受性が豊かで素敵な方が多いという印象があるのと同時に、その豊かな感受性がスレておらずまるで無防備な方が多いというのも印象にあります。
無防備なまま優しい雰囲気でいると、性別に関わらず付け込まれやすくなります。
年齢とともにマシになりましたが私も10代20代のころは神経質なわりに無防備だったので、タクシーに乗ればなめられて遠回りされてしまったり、画廊の仕事でもしつこく誘ってくるお客様を邪険にも出来ず対応に困ったことがありました。
待ち伏せされたり実際に家までついて来られそうになったりということはありませんでしたが、何度断ってもプライベートで会いたいとか私の家に遊びに行きたいと言って連絡先を渡されたり、生年月日を知ろうとしてこられたり…もともとはありがたいお客様のひとりだったのですが、しだいに接客するのがしんどく感じるようになり、そのお客様が来られたら他のスタッフにお願いしてバックヤードに身を隠すなど仕事に支障が出ることもありました。
しつこい人にはやんわりとした断り方では効かず、断っても断ってもあきらめてくれなかったりするので、そうなる以前につけいるスキを見せないことがギャラリーストーカー対策として大事だと思います。
普段仲の良い友人や恋人、家族とすごしているときに無防備でフワフワしている方も、いざ仕事やバイトとなるとスイッチを切り替えてシャキッとされる方も多いのではないでしょうか。
在廊するときは画家さんとしてではあるけれど、どこか意識の中にそのシャキッとしたビジネスライクな部分をキープしておくことが、信頼という意味でも安全という意味でも大事ではないかと思います。
前述した私が困ったお客様については、ここに書いていない接客のやり取りも含めてトータルで見たときに私個人としてはストーカーとは考えていませんが、ここに書いておきたかった理由はギャラリーストーカーとは作家を対象としたものだけではないということを知ってほしいからです。
ギャラリーでは画学生が事務や留守番、接客などのアルバイトとして起用されていることがわりとよくあり、ギャラリーストーカーの問題について考えるとき、そういった立場の人のことも取りこぼさず一緒に考えていただけたらうれしいです。
ギャラリーストーカー対策② 名刺の使い分け
これは名刺の記事でも詳しく説明していますが
名刺は誰でも自由に持って帰れる一般のお客様向けとして個人情報を記載していないものと、仕事としてつながる相手に渡す個人情報を記載したものの2種類を用意して、むやみに個人情報を知られないようにしましょう。
ギャラリーストーカー対策③ LINEは教えない
いきなりLINEで繋がろうとしてきたら、たとえプライベートで繋がりたいという意志が見え見えでも「お客様とのご連絡はメールで承っています」などとホームページの問い合わせフォームなどへ事務的に誘導しましょう。
図々しいギャラリーストーカーの場合、それでも何とかしてLINEで繋がろうとしてくるかもしれません。
その場合は「お客様とのやりとりにはLINEは使わないことにしています」と当たり前という顔でサラッと言えばよいと思います。
「LINEしてないんです」とありえない返事をして「教えたくない」という意志を示す手もありますが、これは相手を不快にさせ怒らせる可能性もあるのであまりオススメしません。
ギャラリーストーカー対策④ 画廊を通してもらう
個人的につながることが怖い場合「お客様とのやりとりは画廊を通してする決まりになっているんです」など、個人での交流が出来ない決まりがあると言ってしまうのも良い方法だと思います。
これは画廊さん側で実際にそういうルールがなくても、困ったときにそういう助け舟を出してくださると作家はとても助かります。
ギャラリーストーカー対策⑤ まわりの責任にして断る
基本的に画廊を通してもらうというのがギャラリーストーカーには一番当たりさわりがなくて良いと思いますが、「ふたりきりでお会いするとパートナーが怒るので」とか「お客様と個人的にお会いすることは家族からやめてほしいと言われている」とか、ちょっと強引ですが画廊や家族、恋人から禁止されているという設定にしてしまうのもアリだと思います。
この自分の意志でない理由にするメリットは、出来るだけ当たり障りなく断れることと、自分には守ってくれる人が背後に付いていることを匂わせることが出来る点です。
あんまり相手がしつこくひどければ、たとえ独身でも「夫に叱られますので」と言ったって良いし「え、結婚されてるんですか?」とくれば「小学生の子どもがいるんです」くらい言って追い払ってもいいと思います。
ギャラリーストーカー対策⑥ 写真はNGと決める
不快な相手に写真を撮られたくないという場合には、はじめから作家の撮影は出来ないと決め、画廊さんにも事前に伝えておくと良いと思います。
事前に決めておけば撮影を要求されてもスタッフが止めてくれます。
一般のお客様には撮られても良いけどギャラリーストーカーにはダメというようなことはせず、基本的に一律NGにして周知させておく方がややこしくならず良いと思います。
顔を知られること自体が気になる場合については、こちらの記事に詳しく書いたので読んでみてください。
ギャラリーストーカー対策⑦ 電話をかけてもらう
これは画廊に限ったことでなく接客業ならどこでもわりとあることだと思いますが、あまりにも長話をして作家を離してくれない場合には、他の人が電話をかけて引き離すという方法があります。
スマホを肌身離さず持っている方には直接電話をかけて「すみません、ちょっといいですか」と電話に出てお客様から離れる、または画廊にかかってきたように装って「お電話が入っています」と呼んで物理的にそのお客様から離れられるようにするなど。
ただ、この場合は作家がガマンしてニコニコ対応していると、周りから見て困っているのかそうでないのかわかりにくい面もあります。
長時間お話しが続いているなと思ったらスタッフはさりげなく注意して様子を見守ることと、作家自身もスタッフにわかるように困っているというサインを繰り返し出すようにしないと、気が付きにくいと思います。
すでにギャラリーストーカーに悩まされていたり、そういう目にあってはいないけれど不安を感じる作家さんは、あらかじめギャラリーに相談してヘルプサインを決めておくと良いかもしれません。
ただ作家側からそうした申し出をするのは勇気がいる場合もありますし、展示の経験自体が初めてというような学生さんなど特に若い方にとってはかなり言い出しにくいことではないかとも思います。
ギャラリーさんの方から「困ったときは知らせてください」というようなひと言があれば作家さんはこの件について話しやすくなると思いますし、「このギャラリーでは安心して在廊出来る」という風にギャラリーの評価も上がるのではないかな。
ギャラリーストーカー対策⑧ 相談する
ギャラリーストーカーに限らず基本的に何か不安になるようなことが起きたら、画廊やまわりの人に報告して相談しましょう。
また、110番するほどではないかもしれないけど心配なことがあって警察に相談したいとき、地域課というところに電話などで相談することが出来ます。
あなたのお住まいの地域の地域課の電話番号などは検索するとすぐにわかると思います。
私はこれまでに何度か地域課に電話したことがありますが、丁寧に応対していただいた記憶があります。
ギャラリーストーカー対策⑨ ひとりで対応しない
作品や仕事の依頼を持ち掛けられた場合、相手や会う場所によって不安な場合はひとりでお客様に会いに行かず、誰かに付いてきてもらうと良いと思います。
すでに作品を買っていただいている場合など、食事に誘われたりすると断りにくい場合もあるかと思いますが、そんな時はよく考えてみてください。
お客様は絵の代金を支払って絵を受け取っているのですから、それ以上の対価を作家がお客様に提供する必要はありません。
ただ食事に誘ってくる人全てがギャラリーストーカーとは言えなくて、きちんとした方でその後長いお付き合いの出来る相手の場合もあるかもしれませんし、そのあたりはキモいと感じるかどうか、なんか変だなというセンサーが働いたら行くのはやめた方が良いと思います。
私の場合は仕事中に知り合ったお客様(ご夫婦)に誘われて食事やオペラ(シネマ)を観に連れて行っていただいたことはありますが、その方たちとはその後年賀状のやり取りをしたり、お見合いの話を持って来られたりもしました。
一方、こわいくらいお金持ちの男性のお客様に軽い感じで食事に誘われた時は、女の人と遊びたいだけだなと感じたので断りました。
だいたい直感的に大丈夫なのとヤバそうなのは感知できると思いますが、基本的に迷ったらやめておく、どうしても行く場合は誰かと一緒に行くことにしてひとりでは会わないことだと思います。
ギャラリーストーカー対策⑩ 屋号をもつ
ギャラリーストーカー対策だけに関わらず、画家活動をする上で屋号をもっている方が個人の名前だけよりもプラスになる場面は増えると思います。
起業したりどこかに登録しないといけないということはありませんから、とりあえず屋号を作っておいてメールアドレスもその屋号で持っておくと、個人名のメールアドレスを伝えるより少し相手は構えてくれます。
そして「画廊を通してください」が使えない場面でも、屋号を前に出して「ご連絡はこちらへ」としておくと良いと思います。
たとえば学生のグループ展の時には「学校を通してください」が使えない場面では、グループの屋号と代表メールアドレスを作り連絡はそこを通してしてもらうなど、個人に直接連絡させない工夫をしても良いと思います。
長話はギャラリーストーカーになる?
お客様のお話しが一方的に長くて困ってしまうこともあれば、ギャラリーでは長いお話しそのものには問題がないことも多々あります。
それは絵画というものが日用品などと異なるカウンセリング商品であるという点で、基本的に接客には時間がかかるものだからです。
どのように時間がかかるかは、こちらの記事に詳しく紹介しています。
個展会場への入場に整理券が必要だったり、抽選販売になるというような人気の画家さんの場合にはそこまで時間をかけなくても売れるかもしれませんが、基本的にはお客様と30分以上ゆったり色々なお話しをして購入というパターンはとても多いです。
そしてそのお話しの内容というのは、必ずしも作家や絵についてだけにはとどまらないということもよくあります。
人はそもそもあまり他人に興味がないものだと思いませんか。
相手の話を聞きたいという人より自分の話を聞いてほしいという人の方が多いのではないでしょうか。
それは展覧会に来ていただけたお客様にも当てはまることで、もちろん作品や作家のことなどをメインにお話ししながらも、お客様のお話しもある程度聞いて気持ちを汲むことで満足して購入していただける、という流れにもなります。
人は「聞いてもらえた」ということで気持ちが満たされ、相手に信頼感や好感をもちます。
必ずしも絵のこと作家のことだけを話せばいい、というものではなかったりします。
ただ購入されたとはいえ、その後エンドレスで話し続けあまりにも長く離してくれないときなどは、周りにサインを出し当たり障りのないよう助けてもらえば良いと思います。
話が長い方には作家とお喋りしたいだけの迷惑なギャラリーストーカーもいれば、絵も買ってくださるし基本的に良い方だけどちょっと話が長くなってしまうケースもあって、線引きが微妙に難しいなと思います。
高圧的な批判はすべてを真に受けず、聞き流しても良いと思います。
もちろん意見に耳を傾けることも大切と思いますが、すべてを真正面から受け止めるのではなく、なんか違うと感じたときには上手に受け流すことで精神的にラクになれます。
困ったお客様から離れる他の方法についてはこちらの記事でもご紹介していますのでチェックしてみてください。
ギャラリーストーカーを防ぐために
ギャラリーストーカーは作家側、画廊側の対策である程度追い出すことは出来ると思いますが、完全に締め出すことは難しいかもしれません。
長年画廊の仕事をしていましたが、こちらに一切落ち度がなくてもわけのわからない人に遭遇してしまうことは1年に1度か2度はありました。(来た瞬間から激怒して大声でさわぐとか、まともな会話が成立しないなど。)
また、お客様を大切にして親切に丁寧に接しているとカン違いしてしまわれる方も時々いらっしゃいます。
画家さんの場合はお客様を邪険に出来ないのでなかなかハッキリ断りにくく、難儀することもあると思いますが
- 個人情報の扱いを慎重にすること
- 出来ないものは出来ないとまわりの人を理由にしてでも断ること
- まわりにわかるように助けを求めること
- つけ込まれないように(たとえフワフワしたキャラだったとしても在廊するときは一線を引いて)毅然としていること(ニコニコしないという意味ではなく)
- ひとりだけで対応しないこと
画廊さん側でも色々対策はされているかと思いますが、これは画家側で自分を守るために出来る対策として覚えておいていただけたらと思います。
追記
この記事を公開してから多くの方が読んでくださっており、ギャラリーストーカーへの関心が高まっていると同時に悩んだり不安に思う人が多いのかなと感じています。
作家だけでなくギャラリーに行くのが好きな方が「もしかして自分もギャラリーストーカーと思われているんじゃないか」と不安になり、この記事を読んでくださっているのかもしれません。
実際は本当に困ったギャラリーストーカーというのはごくごく一部の人で、作家さんとお話しするのが好きなお客様のほとんどがストーカーではありませんし、作家さんもお客様をお迎えしてお話しできることを心から楽しみにし、励みにされている方も多いです。
長話にも限度はあり、たとえば私の接客の経験では3時間一方的にお話しされたお客様がおられ、さすがにそこまで長いときはめまいがして倒れそうでしたが、一般的にご購入の時には会話もある程度は長くなるものですしどうぞゆったりと楽しんでください。
ギャラリーストーカーについては学生たちが国や大学に対策を求めて署名を集めるなど、声を上げ始めたというニュースも目にしました。
それを読んでひとつ気がついたことがあります。
「なんで作家ばかりが対策せなあかんのかな?」
そもそも絵を買ってあげるとか応援してあげるという体裁で性的な目的で作家につきまとったりいやらしいことを言ってみたり、エッチしようとか思ってくれなさるなよ…。ですよ。
学生たちの署名のニュースを読んで、ギャラリーストーカーは作家側の努力だけで防げるものではないという前提で、しないさせないために色々な立場から考えてみてもらえたらいいなと思いました。