画像生成AIによってイラストレーターの仕事がなくなる?画家への影響は?

2022年から一気に普及した画像生成AIによって、今後イラストレーターは仕事がなくなるのか。

画家(絵師)にはどのような影響が考えられるか。

デジタル化など時代の変化によって無くなった仕事や生き残った職業について振り返ると、画像生成AIがイラストレーターや画家(絵師)に今後どのように影響してくるかが想像でき、これからも廃業せず必要とされるためにはどうすれば良いかが見えてくるように思います。

技術の革新で無くなった仕事

画像生成AIの登場は、他のジャンルのデジタル化や技術革新を振り返れば時代の変化としては特別なことではありません。

私の絵の先生はグラフィックデザインがアナログだった時代からデザイナーをしてきましたが、当時の新人がみんな練習させられたのは、ゴシック体などの文字を一定の大きさで正確に書くことだったそうです。

パソコンなどなかった時代、あらゆるパッケージの文字は手書きから版をおこし印刷されたものでした。

お薬のパッケージに米粒より小さな文字で印刷された説明文なども、もとは全て手書きでした。

師匠

一生懸命書いてたアレ、一体なんやったんやろな…

フィルムカメラの時代にはネガ、ポジ、どちらにしてもフィルムについたシミや細かなキズを修復するレタッチマンと呼ばれる職業の人がいました。

今はデジタル化によってアナログなレタッチではなくPhotoshopでの画像データの修正にとって代わられていますが、今後はシミやキズを修復する程度であれば、AIがこなすようになることが容易に想像できます。

印刷業界で考えてみますと、一文字ずつ活字の版を組んで印刷した活版印刷より簡便に印刷出来る写真植字機が開発されると、活版印刷に関わる仕事はなくなっていきました。

写真植字機を使ったアナログ印刷時代は写植屋版下を作る製版屋が必要でしたが、デジタル化が進みダイレクト印刷の登場によって写植屋や版下の仕事もデータ入稿にとって代わられなくなっていきました。

技術の革新によって無くなる仕事は必ずあると考えるのが自然であり、画像生成AIだけが別ということはないでしょう。

無くならない仕事

技術の進歩によってなくなる仕事がある一方、なくならない仕事もあります。

デザインの世界ではillustratorやPhotoshopの普及により、アナログ時代よりデザインの料金が下がったといいます。

今は様々なアプリの登場により、誰でも簡単にロゴマークも作れるようになりました。

しかし、このロゴマーク制作は本来グラフィックデザインの仕事の中でも高い料金が支払われる仕事です。

それはCI(コーポレートアイデンティティ)コンサルタントの一環としてロゴマークの制作がなされてきたからです。

企業理念をしっかりと構築し、それを色やデザインに落とし込んで人々の記憶に残るオリジナリティの高いロゴマークにすることは、企業のブランディングにとって非常に重要です。

とりあえずあれば良い、なんとなくお洒落に見えればそれで良いというのであれば、アプリでロゴマークを作るのもありだと思いますが、ブランディングの重要性と価値を知っているクライアントであれば、コンサルにもデザインにも長けたデザイナーに依頼するでしょう。

コンサルタントもAIで可能になりそうですが、たとえばスポーツ選手がデータなどから分析や戦略を考えられるとしてもコーチのような存在はいなくならないように、デザイン要素を使ったコンサルの場合にもAIがあるからと言ってデザイナーの出番が完全になくなることはないと思います。

商品パッケージのデザインなどで考えると、illustratorやPhotoshopを使ったデザインが主流となり、商品名に既存のフォントを使うことで「どこかで見た字」「どこにでもあるデザイン」というオリジナリティの乏しいデザインがアナログ時代に比べて多くなったのではないでしょうか。

既存のフォントを使わずデザイナーなどに手書きの文字を書いてもらうことで、デザインにオリジナリティが出てきます。

これはデザインツールだけでは出来ないクオリティの仕事をするために、人のアナログな技術が必要になる例です。

カメラにおいてはスマホカメラの性能が日々進化しています。

しかしながら企業のパンフレットやホームページに掲載する写真や記念撮影などでは、依然プロのカメラマンが活躍されています。

それはカメラの機能だけでカバーできない技術があるからです。

記念撮影などは写真を撮るだけでなく撮影空間という非日常を体験できる特別なイベントとして価値を提供出来れば、スマホカメラがどれだけ高性能でも、素敵な背景をAIで生成して合成出来たとしても、お客様がいなくなることはないのではと思います。

このように見ていくと画像生成AIについても「なんとなくそれらしく見えればよい」という程度のイラストの仕事は奪うかもしれませんが、求められるコンセプトをしっかりと具現化するようなきめ細やかな仕事においては人間の手も必要となり、今後も画像生成AI単独でこなすことは難しいのではないかと思います。

画像生成AIの使われ方

趣味の延長としての創作という範囲を超えるのであれば、画像生成AI単独で求めるイラストや絵画を作成することはまだ難しいように見えます。

画像生成AIのMidjourneyを使って描かれた「サイバーパンク桃太郎」というマンガが話題になったことがありますが、人々に大きな驚きを与えた一方その時点でのAIで描ける絵の限界も示されたものだったように思います。

同じような方法で別のマンガが作られても同様のクオリティであれば、「サイバーパンク桃太郎」ほどのインパクトを世の中に与えることは出来ないでしょう。

画像生成AIは今後単独で成果物を作り出すことよりも、成果物を作るためのツールのひとつとしてイラストレーターやデザイン、アニメ業界などに当たり前に定着していくことが予想されます。

画像生成AIの開発段階での著作権侵害が問題視されたりもしていますが、Adobe Fireflyなど著作権についてクリーンな画像生成AIも登場しています。

※この記事のアイキャッチと挿画に使っているイラストはすべて、私がAdobe Fireflyで生成した(Photoshopで一部修正箇所あり)画像です。

クリエイターを守る法律の整備などが追い付いていない感じはありますが、グラフィックデザインにillustratorやPhotoshopが当たり前に使われるように、AIが当然のように使われる時代が来たと思います。

これは「気持ち的にイヤだ」とか「昔は良かった」と言ってもどうにもならない時代の変化です。

イラストレーターが画像生成AIに仕事を奪われないために

これまでのデザイン業界に起きた出来事から考えると、画像生成AIの台頭によりイラストレーターの一部の仕事がなくなったり、価格が安くなってしまう可能性はあると思います。

ただ、それはイコール失業・廃業ということにはならないはずです。

イラストに限らずどんなジャンルであれ、時代の変化に適応すれば生き残ることが出来ます

先ほどの話の中に出てきた写真植字機を発明し印刷業界をけん引したメーカーであるモリサワは、現在は有名なユニバーサルデザインのモリサワUD書体などをはじめとするフォント事業やDTPシステムなど、時代とともに事業の内容がアップデートされています。

イラストレーターや絵師が時代の変化に適応する為には、画像生成AIを毛嫌いしてアレルギーを起こすのではなく、どう利用できるかを考えることだと思います。

画像生成AIによってなくなる仕事がある代わりに、新しいニーズも生まれているはずです。

画像生成AIを使っても誰もが一発で素晴らしい画像が出力できるわけではなく、プロンプトに工夫が必要となることや、生成された画像が修正しなければ実際の利用に耐えられないところなどには新しい仕事の可能性を感じます。

ミラ

どうなすった?と聞きたくなる画像も堂々と生成されます

また、AIの作り出した画像ではなくイラストレーターが手掛けた絵にはどんなメリットがあるのか、どんなところがAI単体で出力された絵より優れているのかを、ハッキリと伝えられることが大切になってくると思います。

自分の絵にどんな価値があるのかを分かってもらう為の努力を惜しまないことが大事だと思います。

画像生成AIが画家(絵師)にあたえる影響

画像生成AIによってイラストレーターの仕事はなくなるかという話ばかりしてきましたが、ここからはデザインなどの成果物の為に絵を描くというより、絵画そのものを展示したり販売する画家(絵師)がどのような影響を受けるかという話をしようと思います。

今後画像生成AIが普及すればするほど、手描きの絵画の価値は上がると私は考えています。

人はすぐに慣れてしまいます。

手塚治虫先生のマンガの中に描かれた高速道路を空想のものととらえていた当時の人々は、現実世界に高速道路が建設された時とても驚いたそうですが、今は珍しくもなんともなく、普段ありがたいとさえ思わず利用しているのではないでしょうか。

画像生成AIも「AIがこんなすごい絵を描けるの?」という驚きをもって見られるのははじめだけ、2022年をピークに徐々に驚かなくなっていき、珍しくもなんともないものになっていくことが予想できます。

画像生成AIの作り出す絵が珍しくなくなった時、特にこれから生まれてくる子供たちの時代には「え、これAIが描いたんじゃないの?人間が描いたの?どうやって描いたの?わたしも描きたい」という逆の現象が起きると私は考えています。

デザイン的な成果物ではなく作品という視点で絵画を見たとき、アナログ絵にくらべてデジタル絵がソンだと思うのは、たとえすべての工程にAIを用いずに絵を描いたとしても、完成したデジタルイラストをパッと見ただけでは普通の人にはAIを使って描いたのか、人間が描いたのかわからないところです。

「AIを使えばだれでもこのくらい描けるんでしょ」

知らない人ほどボタン一つ押せば出来るくらいに考えるもの。

たとえAIに描かせたとしても簡単に素晴らしい絵に仕上がるわけではないということも、やってみたことの無い人にはなかなか理解してもらえません。

私は以前画廊で働いていましたが、シンプルな絵やメルヘンチックな絵は「子供でも描けそう」「オレでも描けそう」と言われてしまうことがありました。

ミラ

いやいや、そう思うなら一回描いてみ

とは言えませんでしたが、この「自分にも描けそう、誰でもできそう」と思われることは、実際には描けないとしてもソンで、「こんなんオレには絶対描かれへん」と思われる絵の方が、リスペクトされたり売れやすかったりしました。

手描き原画に関しては、AIが普及する前から元々お客様はとても喜ばれます。

今は手軽にジクレーなどの複製画を作ることが出来ますが、原画の感動に変えられるものはないことを、画廊で働いていた頃に多くのお客様が教えてくださいました。

ゆっくりとした変化かもしれませんが、手描きの絵画の良さが認識され価値が上がっていくのではないかと思います。

そして今以上に作家さん本人の持つストーリー、世界観、人柄などが作品の評価や人気に関わってくるのではないかとも思います。

画像生成AIが普及しても、絵を描く人口が減るとは思えません。

それは最終的に出来上がった絵が似たものであったとしても、AIにプロンプトを与えることと画材を手に持ち実際に描くのとでは、脳の動いている部分が異なるはずだから。

絵は描いている行為そのものにも魅力や価値があります。

デジタルの氾濫した時代に、アナログで絵を描く行為は原始的で感動的で文化的な洒落た趣味として今以上に人気が出る可能性だってあると思います。

アナログで絵を描く人がいるということは、絵が上手だったり魅力的な絵が描ける画家(絵師)さんは時代の変化があったとしても人気が出るだろうし、画像生成AIが素晴らしいからといって画家は廃業、ということにはならないと思います。

今後はAIと手描きの良さをそれぞれ上手く使い分ける時代になっていくと思います。

この記事を執筆するにあたり、挿し絵となる画像をAdobe Fireflyで何枚も作ってみましたが、ブログの挿し絵程度なら問題なく使えるどころか非常に便利だなと思いましたし、とても楽しい作業でした。

明らかに不自然に生成された部分も、20年後には「この不自然さがレトロで可愛い」と言われそうな予感がします。

ツールとしては他にも色々使い道が想像でき、画像生成AIに大きな可能性を感じました。

画像生成AIの台頭でイラストレーターや画家(絵師)が失業・廃業しないためには、画像生成AIを利用しつつAIでは対応できない部分で勝負していくということなのかな、と思いました。

正直、これまで私は画像生成AIについては「なんてもの作ってくれたんだ」と恐ろしく感じていました。

でも今回この記事を書くために数時間AIを使っただけで、AIは私たち絵描きの強力な味方にもなってくれるという確信を持ちました。

怖がらずAIと友達になろう、それが私の出したこたえです。

追記 : 画像生成AIを使うようになって

私はAdobe Firefly派ですが、ChatGPTでのDALL-E 3の登場など画像生成AIは様々なところで導入がひろがってきています。

この記事を書いた後から、私は絵を描くときに必要な資料集めの一環として画像生成AIを使うようになりました。

出来ることにある程度の限界も感じましたが、ほしい資料を探す時間の短縮になることもあり便利さを実感しています。

これまでの資料の代替ではなく新しい種類の資料といった感じです。

印刷用データを作成するときなどは、元の画像では足りない塗り足し部分にPhotoshopの生成拡張の機能を使うなど、ツールとしてAIを普通に使うようになりました

生成AIというとすごい絵の完成図を想像しがちですが、実際の使用方法としてはillustratorやPhotoshopのように、使う人それぞれがツールとして自分に必要な機能を選んで使っていけば良いのかなと思います。

この記事をはじめに発表したのは2023年の10月ですが、2024年の6月に作成した記事のために再びAdobe Fireflyで画像を生成したところ、以前より機能が良くなっていると感じました。

以前生成したときは目の部分がつぶれてしまいやすくPhotoshopで修正しなくては使えませんでしたが、今回は目もキレイに生成されました。

手の部分もかなり改善されていると思います。

比較のために絵のタッチを指定するプロンプトは変えていません。

他の画像も興味のある方はこちらの記事でご確認いただけます。

AIで生成した挿画も気に入っていますが、このふたつの記事以外では生成AIによる挿画は作っていません。

資料という用途でなく良い画像にしようとするとそれなりにプロンプトに工夫が要りますし、ゴミ画像も沢山出来るので、画像にこだわると結局時間がかかってしまいます。

そしてAIの気配がして人工的な絵は私の場合はわりとすぐに飽きてしまったので、基本的には素材サイトや自分で撮影した画像を使っています。

何に魅力を感じるかや用途によってAIを使わない方がシンプルで早かったり、心地よい場合もあるということだと思います。

この生理的な心地よさってAIが活用されまくる時代において、実は重要な気がしています。

たとえばChatGPTで出力した文章はよく書けているなと感心しますが、感動したことはありません。

現時点での性能だと、自分もAIを活用している人ならAIで出力したコンテンツに気が付く可能性も高いです。

AIで生成したもの自体の善悪という話ではなく、便利で役に立つものと人の心をつかみ動かすものはイコールではないので、AIを使うところと使わないところを見極めるセンスが必要になっていくのではないでしょうか。

現状、クリエイターが尊重されているとはとても思えない状況ですが、デザイン業界にPhotoshopが登場したときのように、大きな時代の流れとしてはAIの進出を止めることは出来ないでしょう。

Googleでは検索ツールの改善のためにすでに生成AIが使われています。

AI反対派の人でさえ気が付いていなくても、日常的にもう生成AIを使用しているのです。

著作権や倫理面の問題をちょっと脇において今思うところは、生成AIのみでなんとか出来るということではないということです。

AIはツールであり手段であり目的ではないからです。

以前AIで作ったロゴマークを見たことがありますが、デザインとしてどこが良いのかわかりませんでした。(これは実際にロゴマークとして採用されたものではなく、あくまでもこんなものが出来ますという一例でした。)

「出来る」ことと「良いものが出来る」ということは別です。

創造するとき、それが文章であろうと画像であろうと映像であろうと、AIを使いながらどう人が関わり手を入れていくか次第で出来上がるものはまるで違うものになるのです。

絵も言葉も人間も、アナログな部分がますますかけがえのない魅力になっていくんじゃないかな。

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MIRAデザイン画家
絵が上達したい・自分の描いた絵を売ってみたい人へ、上達のヒントや画家活動の悩みの解決方法、画材などについて発信しています。 以前は画廊に勤め毎日絵を販売していました。 現在は師匠と吉祥画を制作販売したりリアル系似顔絵の注文を受けたり、絵画講師をしながら独自の支持体と不透明水彩、金箔などを使って絵を描いています。 ブログに書ききれない情報はメルマガで。 一生役立つ水彩画のテクニック講座が気になったら、おトクなオープニング価格のうちに体験してみてくださいね。 2025年2月、大阪堺筋本町の誠華堂にて展示。