絵画を描いて作家活動をしようという方は、手始めに公募展に応募するという人が多いのではないでしょうか。
募集をしている公募展を探してみると、沢山ありすぎてどこに応募すれば良いのかよくわからない、という方へ。
絵画の公募展には大きく分けて4つの種類があります。
それぞれの絵画の公募展の特徴と参加する必要性があるかないか、どうすれば入選しやすいか、審査員をしていた方から直接聞いた話も交えてお話ししようと思います。
あなたの作家活動に合う公募展を見つける参考にしていただけたら幸いです。
絵画の公募展の種類
絵画の公募展はざっくりと4種類に分けられます。
1つめは美術団体が行っているもの、2つめは美術館が行っているもの、3つめは大手企業が協賛する形の比較的規模の大きなもの、4つめは各地のギャラリーが独自に行っているものです。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
①美術団体主催の絵画の公募展
「日展」や「院展」「二科展」などの公募展は、絵画を描く多くの人が一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
「○○会」というような美術団体が主催している公募展です。
有名画家を輩出した歴史の長い団体もあり、繰り返し入選することでその会の会友となり、そこから推薦されて会員に昇格するなど独自のシステムがあり、旧来の画家の登竜門的な存在の公募展です。
応募できる作品は1~3点ほどで、比較的大きなサイズの作品を提出するところが多く、作品そのもので応募し、入賞すれば美術館などで展示されるというシステムが多いようです。
出品料は1万円程度から作品数により追加費用がかかるほか、入選後に展示や公募展図録作成の為に追加料金が発生する場合があります。
②美術館主催の絵画の公募展
美術館が主催し、受賞者はその美術館でグループ展や個展が出来るという絵画の公募展。
こちらも1~3点ほど作品そのものの応募が多いようです。
出展料は様々ですが、美術団体主催の公募展ほど高くない印象です。
③企業の協賛がある、規模の大きな絵画の公募展
こちらは大手企業の協賛があり、開催場所も百貨店などの商業施設や大きなイベント会場で行われる絵画の公募展。
大手企業が協賛することで、他の公募展に比べ、各種メディアで取り上げられる機会が多いようです。
受賞者は企業とのコラボや海外展示のチャンスがあるなど、こちらも現代の作家活動の登竜門的な公募展。
受賞すると商業施設での展示や企業とのコラボなどが出来るようです。
作品そのものを送る前に、ポートフォリオによる一次審査がある場合が多いです。
1点~1ブースに収まる点数。
出展料は1万円ほどから、海外展示がからむと数万円になることがあります。
作品に値段をつけて販売可能なことが多いです。
④ギャラリー独自の絵画の公募展
日本全国各地にあるギャラリーが独自に行っている絵画の公募展。
賞はグループ展や個展の開催など。
画材メーカーなどの協賛がある場合もあります。
1点~1ブースに収まる点数。
大きな会場ではないので、応募作品はかなり小さいサイズに限定されることも多いです。
他の公募展に比べ参加費が安い場合が多く、初心者でも参加しやすい雰囲気。
応募順に出展枠が埋まるケースが多いですが、人気のある企画は一次審査がある場合があります。
作品は販売可能なことが多く、ギャラリーによっては出展者全員が交代で在廊(店番)する必要のある場合があります。
コロナ禍は自粛されていたところが多いですが、ギャラリーの好意で会期中に作家同士の交流会が開催されることがよくあります。
ギャラリーにより扱う作品の傾向や販売力、発信に力を入れているかどうかが異なるため、事前に確認しておくほうが納得して参加できます。
あなたに合う絵画の公募展
絵画の公募展は種類によって主催者のコンセプトや雰囲気が異なりますので、ご自身の体験したいタイプの公募展を選んで応募されることをオススメします。
権威性のある美術団体に所属したい人
有名な絵画の公募展に出してみたい、権威ある団体の会員になりたいという方には美術団体主催の公募展がオススメです。
知名度の高い公募展の場合、入選したり会員などになると画家としてのプロフィールに箔が付くほか、大きな団体の場合は美術館で展示してもらえることもありますし、歴史のある会の場合は集客力もあります。
アーティストとして本格的な活動をしたい人
絵画のアーティストとして活動したい場合、美術館主催の公募展や企業協賛の規模の大きな公募展がオススメです。
有名な美術館で個展が出来ると、メディアでも取り上げてもらいやすくなります。
企業協賛の公募展の場合、企業とコラボ出来る賞を受賞すると、注目してもらうチャンスが増えるほか、このタイプの公募展の会場には画商などのスカウトマンも人材を探しに来ていることが多いので、会場での営業活動を頑張れば、公募展と直接関係のない企業案件を掴む可能性もあります。
チャンスを逃したくない人は名刺やポートフォリオなどを必ず準備し、出来るだけ長時間展示会場にいて接客してみてください。
ギャラリーの中には販売や若手作家の応援に力を入れているところもあるので、そういったギャラリーを探すのもオススメです。
とりあえず気軽に参加したい人
作家活動とかまだよくわからない、画力もまだ自信がないけれどとにかくやってみたいという方には、ギャラリー主催の公募展がオススメです。
名刺やポートフォリオは無いよりあった方が良いですが、基本的に来場するのは参加者の身内がほとんどということもあり、企業案件につながる可能性は低いです。
他の公募展でも交流会は用意されていることがありますが、ギャラリーでの交流会は、自分と同じように絵画を描くのが好きな作家さん友達が出来る良い機会になります。
絵画の公募展に応募するときの注意点
実際に絵画の公募展に応募するときには注意した方が良いことがあります。
公募展の雰囲気が自分の絵画作品と合うか
基本的には新しい作家を発掘し応援するという趣旨の公募展が多いのですが、公募展ごとに特徴というか、求められる作風の傾向が異なります。
例えば少女漫画家を目指す人なら青年漫画雑誌ではなく少女漫画雑誌へ投稿するように、公募展も自分の絵画の作風に合うところを選ぶと良いと思います。
美術団体主催の場合は商品性より「作品」という感じ。
美術館主催なら「アート性」。
企業協賛の公募展はお洒落な作品や、「グラフィックデザイン」として映えそうなもの。
ギャラリー主催の場合は自由度が高く、ややイラストが多い印象があります。
必ずしもこうでなければというものではありませんが、その公募展の求めているものは何か、選ぶ側目線から想像してみると、自分との相性がなんとなくわかると思います。
ギャラリーは独自の世界観を持って運営している場合があるので、そこで普段どんな展示をしているか、調べてみましょう。
企業協賛の公募展は賞が企業とのコラボであることが多いので、デザインに使用した時に映える新鮮な絵、受賞したら展示される商業施設に合うようなお洒落な絵が選ばれやすいのではないかと思います。
また、このタイプの展示は1人1ブース使えることが多いのですが、受賞するような人は作品だけでなく、展示の見せ方も上手な方が多いです。
それぞれの公募展の過去の展示の様子がどんなものか、受賞を目指す人は過去の受賞作品の作風の傾向を予め調べてから応募されることをオススメします。
一次審査に通るには
事前にポートフォリオの提出など審査がある公募展の場合、ある程度絵画を描く技術があることに加え、審査を通りやすいコツがあります。
ポートフォリオを作るにあたり、すでに作品をいくつも作っていることが前提になります。
作家活動が活発な人
いろいろなアートイベントに参加したり、他の人はあまりしていないようなめずらしい実績があるなど、絵画を描く活動を意欲的にしている人。
まだ活動を始めたばかりの方は実績が少ない分、ポートフォリオに作品をたくさん載せたり、今後どのように活動したいか具体的に文章にするなど、意欲があることをアピールしてみてください。
SNSを活用している人
SNSなどのメディアで普段から絵画に関する発信をしている人。
公募展を盛り上げるには多くの人に知って来場してもらう必要がありますので、発信力がある人は重宝されることが容易に想像できます。
その公募展に初めて参加する人
応募者の多い絵画の公募展の場合「多くの作家さんにチャンスを」という理由と、毎回イベントとしての新鮮味を保つために初めての人は審査が通りやすい傾向があるように見受けられます。
同じ公募展に何度も出展している作家さんは、前回参加した時の会期中に売り上げがあった(沢山お客さんを連れてきてくれた)とか、その公募展の趣旨と相性の良い活動形態をされている方が多い印象です。
入選するには
ポートフォリオの提出がなく、直接絵画作品を提出する公募展の場合、応募可能枚数が1点のみでなく「〇点まで」となっていた場合、その最大枚数を提出しましょう。
3点までなら3点出すのが好ましいですが、難しければせめて2点は出してください。
これは実際に審査員をしていた方から伺ったことですが、1点だけだとその人の作風がよくわからないからだそうで、複数提出することで作風やコンセプト、世界観が見る人(審査する人にも)伝わりやすくなるからだそうです。
そういう理由での複数点という意味なので、くれぐれも作品の世界観はそろえて提出してくださいね。
作品サイズに関しては、コンクールであれば「〇号まで」などと書かれていた場合、最大サイズで描くことも重要です。
サイズが小さくても入賞する場合はありますが、大賞や最優秀賞などは大きな作品でないとなかなか選んでもらえないようです。
過去の受賞作品の情報を調べてみられると、サイズと賞の関係性は見えてくると思います。
公募展にかかる費用
出展料についてはそれぞれの公募展の説明にも書きましたが、実際に出展するにあたって他にも費用がかかります。
額縁代
支持体が紙の場合は額縁が必要です。
キャンバスの場合はそのまま展示出来るところもありますが、仮額に入れなければいけない場合もあるようなので、応募要項を確認してください。
配送料
作品を会場に直接持ち込める場合もありますが、配送のみという場合や遠方の場合は配送料がかかります。
この時、品目を美術品扱いにする必要はありません。(美術品扱いにすると保険などもあり高くなります。)
品名は「絵画」と書けば大丈夫です。
展示をスタッフさんにお願いする場合、プチプチはセロテープより養生テープで留めることをオススメします。
スタッフさん側からすると扱う作品数が多いので、作家側で工夫できることはして少しでもスタッフさんの作業の手間やストレスが減るようにしたいものです。
交通費、滞在費
在廊する場合には交通費や食事代などがかかります。
遠方でないギャラリーでの展示や営業を兼ねた出展の場合は、会場に出来るだけいた方が良いので、その日数分かかります。
ギャラリーの公募展は参加費用が手ごろで気軽に応募しやすいことが多いですが、会期中シフト制で店番する必要があると、はじめの予想よりだいぶかかってしまう場合がありますので、注意が必要です。
出展料が高い理由
時々出展料が何万円もする絵画の公募展があります。
それは規模の大きな公募展で、受賞者が海外でも展示出来る等の特典が付いている場合です。
出展料が高くて大規模な公募展だとなんか凄そうと思ってしまいますが、よく考えてみましょう。
それは一部の人が海外展示するための諸々の費用を、参加者全員で出しているということです。
自分が受賞して何が何でも海外に行くのだという気概がある方や、大きな公募展で自分の力を試したいと思う方にはオススメですが、応募するときに何の費用かな?それだけ支払ってまで今の自分に必要な公募展かな?考えてみる冷静さも大事ではないかと思います。
在廊について
遠方の場合や美術団体主催で美術館での展示の場合を除き、絵画の展示期間は出来れば在廊する方が良いです。
チャンスを掴みたい人は(たとえわずかでも)企業案件のチャンスを逃さないように接客する方が良いです。(この場合は参加する公募展も選ぶ方が良いです。)
ギャラリーの場合はお客様にとって作家がいると喜ばれますし、ギャラリーに対しても感じが良いです。
お仕事をされているなど、なかなか会場に行けないという人も、本来何の為の展示なのか考えて出来る限り会場には行った方が喜ばれます。
在廊のときのギャラリーストーカーの心配がある方はこちらの記事もチェックしてみてください。
作品の販売について
絵画の展示期間中に販売が可能な公募展もあります。
販売を希望する場合は作品のキャプションに価格を必ず記載しましょう。
額縁代が価格に含まれているかどうかも、わかるようにしておくと親切です。
もし絵画以外にも販売可能な場合は、ポストカードを用意しておくと何かと役に立ちます。
ポストカードに小さく作家名やホームページ、SNSのバーコードなどを印刷しておけば、名刺代わりになります。
また、友人などが見に来てくれた時、こちらがそのようなことを期待していないとしても「絵を買ってあげられなくてごめんね」という思いを相手にさせない為に、ポストカードという逃げ道を用意しておくのも思いやりだと思います。
販売可能な公募展の場合、終了後に何がどれだけ売れたか集計されますので、ポストカードだけでも沢山の人が買ってくださっていると、次回応募した時も審査に通りやすいかもしれません。
販売に熱心なギャラリーでない限り、レジなどが用意されておらず、自分でお釣りの準備が必要な場合もあります。
万単位の絵画の場合、お客様はクレジットカードで支払いたいという方が多いので、どう対応するか事前に考えておきましょう。
絵画の作家活動に公募展は必要か
そもそも絵画で作家活動をするにあたって公募展に出展する必要があるのか、というギモンはありませんか。
公募展をきっかけに飛躍する作家さんもいますが、それは企業の協賛のある規模の大きな公募展で受賞された場合や企画画廊の主催する公募展など、限られたケースです。
公募展が直接のチャンスになることは実は少ないです。
大きなイベントの場合は会場に画商が見に来ているというのは事実ですが、そこでスカウトされるのを待つより、自分から画商に営業する方が早いのではないでしょうか。
私がかつて画廊で働き絵画を販売していた時は、買いに来るお客様はそれほど作家の略歴は気にされていませんでした。
美術団体についても、一般の人は「日展」や「院展」くらいは聞いたことがあるけれど、他は略歴に記載されていてもよくわからない風でした。
それよりもその作家のコレクターに芸能人がいるとか、作品を献上されたとか、大使館などに飾られているとかの方がお客様にはインパクトがあったようです。
特に画商の場合は、作家の受賞歴より売れやすい絵柄かどうかの方がまず気になるところだと思います。
ではなぜ公募展に参加するのか。
個展などのチャンスがある
企画画廊の場合などは、受賞者は企画で個展やグループ展をしてもらえたり、百貨店での展示につながる場合があります。
活動履歴になる
先ほどポートフォリオの話をしましたが、いくつも展覧会に参加していたり○○展で○○賞を受賞のような記載がある方が、絵画で作家活動をしているとわかりやすい履歴になるので、あった方が良いという感じです。
どこかの企業などに営業をする場合でも、活動履歴や受賞歴がある方が「作家さん」というイメージを持ってもらえます。
でも、もしあなたが人から注目されるような面白い経歴やエピソードを持っている場合、展覧会の略歴より、そちらを書く方が興味を持ってもらえるかもしれません。
自身で強力なウェブメディアを運営している場合などは、展覧会の実績よりそちらの方がわかりやすいこともありますし、必ずしも公募展を通らなくても作家活動は出来ると思います。
人との出会い
ウェブメディアで友達やファンがすでに沢山いるという場合、公募展はその人達に会える良い機会になります。
また、展覧会に誘うことで、長年会っていなかった友人などと再会出来る良いきっかけにもなります。
そして、どの公募展でも他の作家さんとの楽しい出会いがあります。
まとめ
絵画の公募展も色々。
力試しをしたいとか受賞したいなどの意欲がある人は、美術団体、美術館、企業の協賛のある大きな公募展、販売力のある企画画廊の公募展がオススメ。
趣味として気軽に参加したい、友達を作りたいという人にはレンタルギャラリーの公募展がオススメです。
作家活動には必ずしも必要ではないけれど、履歴にしたい方にはあったほうが良いかな?という感じです。
いずれにしても絵画を描いている人にとっては楽しいイベントになることは確かなので、あなたに合いそうな公募展があれば、何回かは体験されてみることをオススメします。