個展・展覧会で好かれる接客のしかた|元画廊スタッフが教えます

公募展やグループ展、個展など、展覧会はお客様と交流できる貴重な機会ですが、せっかく会場に来てくださったお客様と一言もお話ししないままお見送りしてしまった、ということはありませんか。

個展など展覧会をするときどう接客したら良いか、お客様に嫌がられない声のかけ方や、喜んで絵を買っていただくための接客の方法など、10年近く画廊に勤めた元ベテラン画廊スタッフの私が身につけた、リアルな接客のしかたを具体的な会話の文言も紹介しながら解説していきます。

展覧会の接客は嫌がられる?

展覧会、個展の会場でスタッフなどに声を掛けられるのが嫌だという方は、一定数いらっしゃると思います。

私は中学生の頃、近くのデパートで巨匠の版画展があるというので嬉々として出かけ、美術館の展覧会のような気持ちで入ったのにスタッフに声を掛けられドギマギ、大人ばかりの会場でテーブルでは商談の真っ最中という、場違いなところに来てしまった世間知らずな自分がはずかしくて、ロクに絵も見ないまま逃げるように会場をあとにしたことがあります。

そのとき、子供ながらにハッキリとわかったことがありました。

お金を払って見に行く美術館などの展覧会と、無料で見られる展覧会は別物ということ。

お金を払って見る展覧会は話しかけられなくて当然ですが、誰でも無料で見ることの出来る展覧会というのは展示販売会である場合が多く、その性質上、スタッフなどに話しかけられて当然の場所なのです。

そうはいっても、通りすがりにふらっと立ち寄っただけなのにスタッフがくっついて回ったり、買う気がないのにしつこく接客されたら私も嫌です。

そのあたりはお客様の様子をみて、臨機応変に対応すれば大丈夫。そのあたりもこれから説明していきますね。

画家本人は接客しない方が良い?

展覧会で接客はして良いけど、画家本人がする必要があるのか、という疑問について。

例えばサイン会で行列が出来るレベルの話になると、先生は用意された席に座り、並んでくれたファンと一言二言話すだけでじゅうぶんと思います。

百貨店など接客スタッフのいる画廊の場合も、ある程度スタッフに任せておくと良いです。

ただ、(会場の混雑の程度にもよりますが)ご購入のお客様とのお話し中でなければ、お客様と目が合ったら会釈するとか、ひと言挨拶するとかはした方が感じが良いと思います。

話しかけるなオーラを出しまくっているお客様のことは、そっとしておいてあげましょう。

公募展やグループ展、個展でも画廊さんが「販売はご自身でどうぞ」というスタイルの場合は、作家自身で接客しましょう。

接客は販売するかしないかに関わらず、お客様とコミュニケーションをとるという意味で大切です。

画家本人が接客するメリット

以前、出掛けたついでにTwitterで時々見かける画家さんの個展会場に立ち寄ったことがあります。

ちょうど作家さんも会場におられて、他のお客様の数も少なく、もしその方がニッコリとでもされたら「Twitter見ました」とか何かご挨拶くらいはしようかなと思ったのですが、一向に目が合わないのです。

かなり近くまで来ても、コミュニケーションを取ろうという気配がありませんでしたので、私も買うわけでないのに話しかけるのもと思って、一通り作品を見せていただいただけで会場を出ました。

これって結構もったいないことだな、と私は思います。

私自身はその方のファンだったわけではありませんが、もし近くにいるときに「こんにちは」とかほんの少しのコミュニケーションがあったら、その作家さんに良い印象を持っただろうし、Twitterも時々タイムラインに流れてくるっていうだけでなくてフォローしたかもしれないし、会場の入り口の撮影なんかして「○○さんの個展を見てきました」なんてツイートで、心ばかりでも拡散のお手伝いをしたかもしれません。

私は仕事でいろんな作家さんのサイン会に立ち会いましたが、買うつもりではなくてとりあえず見に来たお客様も、画家本人を目の前にし少しお話しされたりすると「こんな機会もなかなかないし、記念に買おうかな」と心が動く場面を何度も見てきました。

お客様とベラベラ話す必要はないし、上手に話せなくても全然いいと思いますが、濃いファンだろうと冷やかしだろうと、自分の展覧会の会場に足を運んでくれた人に「ようこそ」とか「ありがとう」という気配を出しておいてマイナスになることはないと思います。

展覧会での接客のしかた

他に接客スタッフがいる場合は、画家は会釈や挨拶程度でじゅうぶんです。

画家本人が接客しないといけない場合、どう接客すれば良いかというお話しをしていきましょう。

挨拶するタイミング

お客様が画廊に入ってきてお互いに姿が見えた段階で「こんにちは」などとひと言挨拶しておきましょう。

ニコニコしておけば大丈夫です。

入り口で中の様子を伺っている様子なら「どうぞ」と笑顔で声をかければ大抵入って来られます。

話しかけるタイミング

挨拶して速攻で近寄らずジロジロとは見ないけど、それとなくお客様の様子を気にかけておきます。

しばらく立ち止まって絵を眺めていたり、熱心にキャプションを読んでいるなと思ったら声をかけてみましょう。

人が不快に感じやすい背後からでなく、横に並ぶような感じで「こんにちは」とか「○○です」とか、公募展などで沢山の作家が出展しているときなどは「この絵を描いた○○です」というようにニコニコしながら声を掛ければ大丈夫です。

DMや名刺をこのときに「よろしければどうぞ」と渡すと自然です。

何を話したらいい?

話しかけたけど、それからどうしたら良いかはお客様次第です。

画家本人が声をかけてきてくれたらお客様も何か言ってくださるはずなので、それに合わせるのですが、「キレイですね」とか「すごいですね」とか無難な言葉が返ってきても大丈夫。

絵の説明をすればいいです。

どんな絵の具で描いたかとか、どんなイメージで描いたとか、モデルのことや技法など、相手が聞きたそうなら色々お話ししましょう。

お客様から離れるタイミング

挨拶したもののお客様が緊張しているようだったり、そっとしておいてほしそうだったり、少しお話しして間が出来たら、グズグズつきまとわず一旦離れてさしあげましょう。

その時に「ゆっくりご覧になってください」とか「何かあれば声をかけてくださいね」などひと言そえると自然に離れることが出来ます。

もう一度話しかける

お客様から離れておわりではなく、やはりそれとなくお客様の様子は気にかけ、話しかけられるのが迷惑そうでなかった方にはここぞという部分の説明をするなど、時々話しかけてみましょう。

特に絵を販売したい場合は、前もって購入を決めて来場された方は別として、お話しもしないで買ってくれるほど甘くはないので、しつこくない程度に出来るだけお話しはされた方が良いと思います。

購入を検討されていたら

「ちょっといいな」「ほしいかも」というサインをお客様が発していたら、その絵の良さをもっとお伝えしましょう。

実はこのモチーフは縁起が良いとか、どの部屋でも飾りやすいとか、自分も気に入っているとか。

そして、展示期間に購入された場合のご購入特典についても、さらりと話すと良いと思います。

購入した人だけにプレゼントする非売品のポストカードとか、ミニ色紙とか、額縁の裏板にサインやメッセージをお入れしますというのも喜ばれます。

お見送り

お客様が帰るときには、他のお客様の接客中でなければひと言「ありがとうございました」と声を掛けるとお互い後味が良いです。

ご購入いただいた方や接客して色々お話し出来た方には「またよろしくお願いします」とか「SNSもしていますので、よかったら見てください(名刺に載せています)」など、今後も応援していただけるようひと言そえると良いと思います。

購入されなかったお客様にも、感謝の気持ちでお見送りしましょう。

買わないと入りにくい展覧会だと思われると、その方はもう二度と来てくれないかもしれないのでソンです。

なんか面白かったなと良い印象を持って帰っていただけたら、もう来ないかもしれないけど、また来てくださることもあるかもしれません。

困ったお客様への対応

お客様にはいろんな方がいらっしゃいます。

話しやすい方、ちょっと威圧的だけど誠意で対応したら買ってくださる方、絵が大好きな方…。

でもすべてのお客様が自分にとって都合の良い人ばかりではありません。

絵に対するウンチクを長々話してくる方、おしゃべりしたいだけの方、他にもお客様が来ているのにお構いなしで話を続け、画家やスタッフを独占してしまう方…。

そんなときは邪険にするわけにはいきませんが「ごゆっくりご覧になっていってくださいね」とか「皆さんにご挨拶させていただいているので、いってまいりますね」とか挨拶して離れてしまいましょう。

お客様から失礼な質問をされる場合もあるかもしれませんが、答えたくないことは答えなくて大丈夫です。

時には同業者が技法を聞き出そうと色々質問してくることもあると思いますが、秘密にしておきたいことは説明する必要はありません。

絵描きさんは細やかな神経を持った優しい方が多いですが、何もかも正直に話したり、嫌なことまで我慢する必要はないことを心に留めておいていただけたらと思います。

ギャラリーストーカーへの対策はこちらの記事で詳しく紹介しています。

展覧会の接客のコツ

展覧会に限らず、接客は笑顔が命です。

画家さんは販売員でなくアーティストですから、上手に話せなくても良いのです。

ニコニコしていれば、間違いありません。

もし緊張してニコニコ出来なかったとしても、不器用でも丁寧に接していれば、お客様には誠意が伝わります。

画家さん本人に声を掛けられて怒るお客様はほとんどいないと思いますので、あまり心配せず話し掛けてみてくださいね。

絵を売りたいという方はこちらの記事もどうぞ。

展覧会(公募展)についてはこちらの記事もオススメです。

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ミラデザイン画家
似顔絵肖像画を描いたり師匠のアシスタントをしながら制作活動をしています。好きな画材はポスターカラー、不透明水彩、日本画の絵の具。琳派とヨーロッパアンティーク風の絵が好きです。画家活動や画廊で長く働いた経験から得た、絵の描き方やリアルなアートの話のほか、生きづらくて苦しんだ後にたどり着いた、前向きでラクな考え方や肩の力を抜いた楽しい生き方についても書いています。