デッサンとは何か、デッサンで学べることや身につく絵の技術にはどんなものがあるか。
基本的なデッサンのやり方やモチーフの選び方について詳しく解説します。
デッサンとは一般的に、絵を描く人が必ず通る道だと思われているようです。
美術系の大学に行こうとすれば、入試には必ずデッサンの実技があるし、画風によってはデッサンが出来ないと表現したいものを描くことも難しい。
けれど、世の中にはデッサンをしないからこそ面白い絵が描ける人達もいます。
デッサンとは絵の基礎でありながら、絵を台無しにしてしまう魔物のような一面も持ち合わせています。
そんなデッサンは学んだ方が良いのか、何のためにするのか、デッサンが絵をダメにしてしまうケースについてもお話しします。
もくじ
デッサンとは何か
デッサンとは鉛筆や木炭を使い、モノトーンでモチーフをリアルに描く絵のこと。
デッサンで身につくことは沢山あります。
- 正確な形がとれる
- 光と影を理解する
- 奥行きや立体感を表現する
- 位置関係や距離感を表現する
- モチーフの質感や重量感を表現する
- 色相ごとの明度を理解する
形を正確に表現する
デッサンとはモチーフをリアルに表現するもの。
モチーフの形を正確にとらえるには、まずモチーフのシルエットをザックリとつかむことから始めます。
ザックリと形をつかむには、モチーフをよく見て特徴的な部分を選んで点として紙に描きます。
点と点の位置や距離感をよく観察して配置したら、点と点を結ぶようにして大まかなシルエットのガイド線を薄く描きます。
これを「アタリをとる」と言います。
一度アタリをとったらもう少し細かくアタリをとり、必要なところにガイド線を描き足していきます。
アタリのガイド線に沿って、より細かな形を描き起こしていきます。
デッサンは細かな描写から始めずに、アタリをとって描き進めるのが基本です。
私は人物イラストを描くとき目から描くクセがあったのですが、デッサンとは細かな描写から始めてしまうと完成段階で全体の形がズレてしまうものなので、アタリをとってから描くように矯正しました。
細かなところによく気が付き描き込むのが得意な人でも、なぜかアタリをとるのは大雑把に終わらせてしまうというケースはよくあります。
アタリが狂っていると後から修正箇所が増えるなど苦労するので、シルエットの形をよく観察して点と点の距離、縦横の比率などが狂わないよう丁寧に描き起こしていくと、その後もデッサンを順調に描き進めることが出来ます。
光と影の関係性を理解し立体を表現する
デッサンとは色彩のない絵です。
白から黒までの間の様々な明るさのグレーだけを使ってモチーフをリアルに表現するには、どこから光が差し込んでいてどちらに影が落ちているのか把握する必要があります。
明るい光の部分と暗い影の部分を描くことで、二次元の絵に立体感を感じさせることが出来ます。
白と黒の間のグレーの色数が多いほどリアルな表現が出来ますので、デッサンの時には様々な濃さの鉛筆を用意します。
いきなり細かく繊細なグラデーションを描くのではなく、形を描くときにアタリをとったように、陰影もはじめはザックリと描き始めます。
目を細めてモチーフを見ると、陰影のコントラストが強調されて見えるので、ザックリつかむのが難しいという場合は目を細めてみましょう。
奥行きや距離感を表現する
デッサンでは光と影だけでなく、透視図法なども用いて絵に奥行きを出します。
複数のモチーフの一部が重なり合うように配置すると、手前にあるものと奥にあるものという位置関係と「奥行き」という空間を絵の中に表現しやすくなります。
また複数のモチーフを同一画面に描くことで、モチーフ同士の距離感をつかむ練習にもなります。
モチーフが複数あるときは大きさの設定がモチーフごとにバラバラにならないように気を付けます。
これは複数あるうちのひとつのモチーフばかりを描いてから別のモチーフを描くという順番で描くと起こりやすい失敗です。
デッサンするときは必ず始めに全体のアタリをとり、複数のモチーフをまんべんなく進行させることで大きさや位置関係のズレに早く気が付くことが出来ます。
質感や重量感を表現する
デッサンではモチーフがフサフサした毛足の長いものかツルツルしたものか、マットな質感かツヤがあるか、ギラギラしているかガサガサしているか、硬い、柔らかいといったようなモチーフのもつ質感や、ずっしり重いとかスカスカで軽いといった重量感も絵に表していきます。
ガサガサしたものや軽いものは描き込みを控えめに、重たいものやツルッとしたものは柔らかな鉛筆から硬い鉛筆に持ち替えながら細かく描き込んでいきます。
柔らかなものはガリガリ描き込まずに鉛筆で描いたところを手などでぼかしてフワッと仕上げると柔らかい雰囲気が出ます。
硬めの鉛筆で密度のある描き込みをしていくと硬い雰囲気が出ます。
質感は鉛筆の硬さの他に、光と影の表現によって描き分けられます。
モチーフごとに光の反射のしかたが違うのをよく観察して描くことで、質感の描き分けが身についていきます。
色相をモノトーンで表現する
デッサンではモチーフの色をモノトーンで表現することで、色相ごとの持っている明度の違いを理解することが出来ます。
また、白いモチーフを描くことで、黒い鉛筆を使って描いていても、見た人が「これは白いものだ」と感じられるような表現力が身につきます。
デッサンで使う鉛筆
HやBといった記号は鉛筆の硬さを表していて、Hの数字が大きいほど芯が硬く色は薄くなり、Bの数字が大きいほど芯が柔らかく色は濃くなります。
どのようなものを描くかにもよると思いますが、私がデッサンしていたときは3H~6Bまでの鉛筆を揃えていました。
デッサンに使う鉛筆は鉛筆削りを使わず、ナイフやカッターナイフで鉛筆の芯の部分を長く出すよう削って使います。
芯を長く出すことで、鉛筆を立てたり寝かせたりして表情の異なる描き方が出来ます。
デッサンで使う消しゴム
デッサンでは基本的に練り消しを使って消します。
ただ消すだけでなく、練り消しで軽くトントンとぬぐうことで、描き込み過ぎたところの濃さを調節することも出来ます。
デッサンしているときは気が付くと手が真っ黒になっていて、それで画面を汚していることもあるので、気がついたら練り消しで絵も手も綺麗にしておきます。
木炭デッサンの場合は消しゴムの代わりに食パンを使います。
育ちざかりの画学生はたぶんみんな、消しながら食べたことがあるのではないかな。
デッサンモチーフの選び方
デッサンでは様々なモチーフの形を正しくつかめるように、初心者はシンプルで基本的な形をしたものから始めることが多いです。
直方体の牛乳パックや円柱形のワインボトル、球体のテニスボールなど。
デッサンではこのような人工的に作られたモチーフと、おなじみのリンゴやバナナなど、自然のモチーフの両方を描いていきます。
人によって人工的な方が得意とか、自然の方が好きとか好みが分かれるようです。
デッサン初心者は初めから複数のモチーフを描くのは難しいので、一枚のデッサンに一つのモチーフから始めると良いと思います。
モチーフを複数選ぶときには、形や質感、色の特徴が異なるもの同士を選ぶことで違いを描き分けるという練習になります。
余談ですが、私がデッサン教室で一番描くのに苦心したモチーフは、お弁当に入れるアルミのまるいカップが透明のパッケージに入っているというものでした。
人工的なものが苦手なうえ、アルミカップのヒダヒダが細かく、アルミの銀色の表現とパッケージの透明感の描き分けに相当泣かされましたが、先生もよく考えてモチーフを選んでくださったのだなと、今となっては納得します。
人物のデッサンについては別の記事にまとめますね。
まとめ
デッサンとは絵を描く為に必要なモチーフや光、空間のとらえ方、表現の仕方を身につけるために大切な勉強法です。
デッサンは様々な異なる特徴をもったモチーフを描き分けるための勉強でもあるので、好きなものを好きに描くのとは違い、苦手に感じたり描くのがしんどいと感じることもありますが、一生懸命取り組んだ実技としての経験はきちんと身について残るものなので、頑張るだけの価値もあります。
実際に描きたい作品を制作するときは、鉛筆画でなく絵の具など他の画材を使うことが多く、その画材ならではの特性をつかんで描く技術も要りますが、基本的にデッサンが出来るとどのような画材で絵を描くときにも応用が利きます。
デッサンをするときのコツについては、こちらの記事にとても詳しく書きましたので、こちらもご参考にどうぞ。
デッサンしないほうが良い人
さて、絵画の基本とも言えるデッサンですが、稀に「(良い意味で)この人はデッサンを勉強しない方が良いだろう(むしろ、しないでいてほしい)」と感じる方がいらっしゃいます。
2・3歳位の子どもは人や動物を描くとき、〇に目や口があってそこから手足が棒の様に伸びているような絵をよく描きます。
子供の絵の展覧会を見に行くと、主に幼稚園の年少さんのクラスの絵で見られるものですが、この時期の子ども達の描く絵はどの絵も本当に生き生きと絵が踊っているようで、感動します。
ここから少しずつ成長するにしたがって正確に描こうとか、上手に描きたいという意識が入ってきて、どんどん去勢された絵になっていくのですが、それと同時にそこで身につけた技術を使って、子どもには描けない絵を描くのが多くの画家ではないかと思います。
ところが、頭足人ではなくなっているものの、その頃の無意識の感覚を忘れずに描いている(のではないかと思われる)方が時々いらっしゃいます。
そういう方の絵は上手いとか下手と決めつけられない、生き生きとした魅力を持っています。
子供の頃通っていた絵画教室で静物画を描いていたとき、先生が私の描いた柿を見て「柿はマルじゃなくて四角く描くんだよ」と筆を入れてくださったことがありました。
ほんのわずかな添削で見違えるように良くなり、先生ってすごいなと思ったことがあります。
一方、大人になってから色々なところで他の方の添削例を目にするようになったとき、絵の先生がデッサンを意識して絵を修正したことで、本来生徒さんの持っておられた生き生きとした筆の動きや絵の良さを摘み取ってしまっているケースに、悲しくなったこともありました。
デッサンとして描かれたものでない絵にとっては、必ずしもデッサンが最優先事項ではないのだと気が付いた瞬間でした。
もともと持っている絵の良さというのは、ともすると見過ごされてしまうものかもしれません。
そして他人が見ていくら良いなと思っていても、本人がデッサンを習いたいと希望しているならそうするのが正解なのかもしれません。
でも、もしも本人がデッサンを学ぶことを特に希望しておらず、生き生きとした良さが絵に出ている場合には、デッサンで矯正するのでなく、その方の表現がより豊かに広がるよう「こんな方法もあるよ」とデッサンとは別の画材を使った技法を色々指導するという方法もアリではないかと思います。
デッサンは基礎であり王道であるけれど、オールマイティではないようです。